「…………」

…成る程、そう来たか。
これは完敗だ、降参降参。転校生の圧倒的勝利。これが計算でなく天然でやってるものなら相当性質が悪い。
盛大に溜め息をつきたい衝動を抑えながらちらりと奴を見れば、大げさにびくりと震えた後、無理矢理感溢れる笑みを浮かべて口を開いた。

「悪い、俺仕事の邪魔…だったよな!騒いでごめんな?出てくからさ、その…本当ごめんっ」
「楓っ!」

そう口早で俺に告げた後、立花はバタバタと生徒会室から出ていった。
おい、完璧に俺が悪者か。あん?ふざけんな。
その後を慌てた様に書記と双子が追いかけていく。最後に出ていこうとした副会長はそれだけで人を殺せそうな程の視線を俺に残していった。どうでもいいが仕事を少しでも良いから持ってけ!


一人残された俺は思わず頭を抑えた。面倒くさい奴等ばかりだ、どうしろって言うんだ。優しくすりゃ良いのか?俺が?あいつに?冗談じゃあない。
っつーか例えそうしたとしてもあいつらは俺を憎みそうだし、まず仕事はしねぇだろうし。
2週間かそこらであれだけの愛が作られるものかね。凄ぇよ、尊敬だ。愛って偉大。ワンダフル。


相当疲れているらしい頭を休める為、椅子の背もたれに背伸びをしながら寄りかかった。
近日中に提出しなければならない書類はまだまだある。あー後明日の会議の為のパワーポイントも途中だったな…終わるだろうか。
らしくもなくメゲそうになった時、不意に生徒会室の扉をコンコンと遠慮がちに叩く音が聞こえた。
そちらに一度視線を移し、腕時計で時間を確認する。いつの間にか授業が終わっている時間だ。なら、彼だろう。そう判断し、姿勢を正してから扉の外の人物に声をかけた。



「開いてる。入れ」
「――失礼します、」



カチャリ、と静かに音を立て礼儀正しく入ってきたのは1学年下の、宮下翼だった。見た目は完全なる不良だがその真面目さ故、俺が気に入って生徒会補佐に選ばれた。さしずめ「不良になりたいお人好し」ってところか。まあ喧嘩は強いらしいが。

「会長、頼まれたモノ終わりました」
「あぁ…サンキュ。見してみろ」

手渡された書類に目を通す。うん、丁寧で綺麗。完璧。正直役員よりもずっと働いてくれている。感謝してもしきれねぇな、こいつには。
「ん、大丈夫だ。悪ぃな、いつも」
「俺は平気です。それより会長、あんま顔色良くないですけど…」
「ちょっと寝不足なだけだ、心配すんな」
翼の言葉を適当にあしらってパソコンを起動させるボタンを押す。先輩に対しては腰の低いこいつだが、健康に関してはうるさいのだ。ここで仕事止めろなんて言われたら堪らない。
案の定翼は眉間に皺を寄せ、他の方は居ないんですかと少々低めの声で聞いてきた。それに肩を竦めると、ますます不機嫌な様子になる。ここら辺は短気だ。

「絶対に理不尽ですよ、何で会長がこんな…」
「ばか、言うだけ無駄だろ。もう諦めてるっつーの」
「…俺に出来る事なら何でも言って下さいね。会長だけで頑張る必要なんかねぇっス」
「口調」
「ないです」
律義に言い直す後輩に思わず小さく笑いがもれる。素直で優しいこいつが助けてくれているから、俺はまだ頑張れるんだ。




「ありがとな、翼」
「………はい」




- 4 -


[*前] | [次#]


しおりを挟む

>>>目次

ページ:




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -