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静まり返っていた食堂が、彼の発言により俄かにざわめき出した。書記が会長側についたのなら、生徒会は本格的に二分される事になる。しばらくざわついた後、皆は事の成り行きを見守ろうと口を閉ざした。
東條は眉間に皺を寄せキツい眼差しで篠山を睨み付けると、どういう事ですかと低い声で問うた。その目は暗に、『裏切るのか』と言っている。今まで聞いた事のない唸る様な声だったが、篠山は怖じ気づく事なく肩を竦め、口を開いた。
「どういう事も何も、誰がどう見たってさっきのは平凡君の説明が正しいでしょ〜。って言うかなんか勘違いされてそーだから言っとくけど〜、俺が副会長達と一緒に居たのは、楓ちゃんと居たかったからだし。会長の事嫌いじゃないもん、俺」
険しい顔つきになる三人を眺めて再び笑うと、篠山はだからね、と続けた。

「悪いけど、俺は今度からこっち側につくよ。正直いつ切り出そうか迷ってたんだけどー、なんか、これを機に?みたいな?ね、平凡君」
「はぁ…。俺に振られても」
「えーそう?あ、君名前何だっけ〜」
「宮村っス」
「あ〜そうそう、宮村クンだ。…あ、楓ちゃん誤解しないでね!こっち側来ても俺は楓ちゃん大好きだよ!」
「へ?…ぁ、あぁ……?」

宮村とじゃれ始めたかと思えば終始呆然としていた立花にいきなり声をかけだす篠山に、南はまた変な人間が出てきたなと頭が痛くなってきた。何故こうも『彼』の周りには一癖も二癖もある様な奴が集まるのか。
苦々しい顔をしながらも黙りこくってしまった東條達に静かに目をやると、黒井は再び一歩前に出た。授業開始のチャイムはとうに鳴っている。これ以上生徒達を引き留めておくわけにも行かなかった。

「……一先ず、この場は解散とする。各自急いで自分の授業に向かう様に。この事について他言は無用だ、……行け」

その言葉に生徒等は少し戸惑った様に顔を見合わせていたが、中央に立っていた東條と萱嶋兄弟が舌打ちでもしそうな勢いで、だがしかし無言で踵を返したのを見、慌てて食堂から出て行った。立花も宮村が行こうと歩き始めた為、ちらちらとこちらを気にしながらも長谷川と真壁を連れて帰っていく。その後ろ姿を見て、南は小さく息を吐いた。……とんだ大事になってしまった。

「…とりあえずあぁ言ったが、生徒達が沈黙を守るとは思えない。明日にはまた新たな噂が流れているだろうな」
「そうだな…、…また、変な尾ひれがついてる様なもんじゃあなけりゃ良いけど」
「会長の噂はほんと酷かったもんね〜、俺初めて聞いた時はびっくりしちゃったよー」

黒井の言葉に頷いていれば間延びした喋り声が横から聞こえてきて、南はぱちくりと目を瞬かせながらそちらを見た。篠山だった。まだいたのか、と少々失礼な事を思いつつ訝しげな視線を彼に送る。幾ら公の場であんな発言をしたとは言え、まだ彼を完全に信じることは、出来なかった。
「…お前、あー篠山?…本当にこっち側につくのか?」
「ん〜…俺はそうしたいけど、会長がダメって言ったら諦めるかなぁ。だってちょっと調子良すぎるもんね、いきなり仲間にして下さい〜って。だから、会長に聞いてからにするー」
へにゃ、とした笑みを浮かべながらそう言う篠山に、南と黒井は一度目を瞬かせた。こういう事をちゃんと考えられる様な奴だったとは思わなかった。いつもチャラチャラしている姿しか見た事が無かったのだ。だが確かに思い返せば、恭夜は篠山の事は敵として余り気にしてない様に見えた。もしかしたら彼は気付いていたのか、もしくは知っていたのかも知れない。
そこまで考えてとりあえず、と南は前を向いた。ここにずっと居ても仕方がない。



「…保健室、行くか」



その言葉に一瞬の間を空けてから、残りの二人はゆっくりと頷いた。




****



冗談では無いと、廊下を荒々しく歩きながら東條は唇を噛み締めていた。
あの場での出来事の全てが予想外だった。特に、篠山の離脱。何を考えているか分からないとは思っていたが、まさか裏切られるとは思わなかった。否、彼にとっては裏切ったつもりさえ無いのだろうが。

冗談では無い。

東條は再び、今度は口に出してそう吐き捨てた。これでは計画が丸潰れだ。不機嫌さを隠そうともしていない彼に、後ろからついてきていた双子が口を尖らせながら声を掛ける。



「「ねー、これからどーすんの〜副会長ー?」」
「私がこのままで済ます訳が無いでしょう。……ちゃんと策があります」



今度こそ、上手くいく。彼をあの場所から引きずり落としてみせる。


東條は睨み付ける様に廊下の先を見据え、止まる事なく歩を進めた。





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