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俺は、考えた。必死で考えた。
今一番選べる最良のチョイスが一体、何なのかを。
やり直しのきかないゲームをやっている様な感覚だ。間違っているか間違っていないかはボタンを押してからしか分からない。正しいボタンがあるのかも、分からないんだが。
正直心底遠慮したいがそんな事をすればどうなるか、…考えたくもねぇ。後生だからこの騒ぎを役員共が見ていない事を祈る。無理な相談だろうが。

「恭夜…だ、だめか?」
「…あー…」

思いっきり不安そうな顔をして俺を見てくる立花は、月並みな表現だが捨てられた子犬みたいだ。そんなもんで心動いたりしないが、…ちょっとの飯くらい良いかとゆっくり顔を上げて口を開こうとした瞬間、奴の後ろに立つ長谷川の顔が見えて俺は思わず口をつぐんだ。

激しい、憎悪の目。
それが俺ではない、誰かに向けられていた。

その視線の先に居たのは、鬼嶋。彼は我関せずと言った顔をして黙々とカレーを食していたが、長谷川は確かにこいつを睨み付けていた。少々困惑したが、そう言えばここにいる奴等は皆同じクラスだっけか。何か因縁があるのかも知れないが、詳しい事はとりあえずどうでもいい。もしこの二人の仲が悪いんなら、立花と一緒に席につく事は出来ない。彼が来るなら長谷川も来るだろうし、とりあえず俺は余計な騒ぎは起こしたく無いんだ。
治まっていた頭痛が再びズキズキと締め付けてくる感覚を無視して、俺は立花に目を向けた。

「…立花、悪ィがもう少しで食べ終わる。一緒には――」

みなまで言う前に、相手の顔が泣きそうに歪められた。…その緩い涙腺を何とかしてくれ。『悪ィが』ってつけてやっただけでも有り難く思えよ。
と、鬼嶋を殺しそうな位の視線で射ていた長谷川がターゲットを俺に変えた。見ていたこっちが鬼嶋に穴が空くんじゃないかとハラハラする目線だったから、まだマシだ。
「テメェ…楓が折角誘ってやってンのに、断るのかよ!!」
「………」
頼んでねぇとか聞いてきたのはそっちなんだから俺には断る権利があるとか色々言い返したかったが、俺は黙って食事を続ける事にした。耳元で騒ぎまくってくるのが鬱陶しい。俺は静かなのが好きなんだよ、くそ。


で、こういう時にあいつ等は来るんだ。もっと鬱陶しい奴等が。




「楓の優しさを無下にするとは、やはり貴方は最低な方ですね」
「「何様なわけ〜?ムカつくー」」
「っ、ぉ、お前等…ッ」




聞きたくない声が食堂に響き渡り、他の生徒が色めき立つ。立花は少し非難の色を含んだ声を上げて、俺の後ろを見た。…あー、本当、頭いてぇ。
ちらと横目で声のした方を見れば、まあ案の定も何もないんだが東條と萱嶋兄弟、それと少し離れた場所で篠山が立っていた。立花親衛隊のお出まし。ただ久し振りの飯を食いに来ただけだっつーのに、何なんだこの状況は。どうやら俺は本当に運が悪いらしい。


すっかり味のしなくなった定食を眺め、俺は箸を置いた。少しだけ残っていたが、野菜は食べたから…っつーか飲みこんだから、良いだろう。前に座る鬼嶋を見れば、既に食べ終わって水を豪快に飲んでいた。この状況が目に入ってないんだろうか。
とりあえず、もう帰った方が良い。食堂に来るのは本当に惜しいがこれで止めようと心のうちで呟く。
げっそりしながらも席を立とうとすれば、眉間に皺を寄せている東條が口を開いた。

「聞いているんですか?楓は貴方が今辛い目にあっているんじゃないかと心配して、ずっと悩んでいたんですよ。まぁ私からすれば自業自得だと思いますが」
「「その楓の優しさが分からないとかありえな〜い。調子に乗りすぎじゃない?」」
「ちょ…やめろよ!俺はそんな事言いたいわけじゃなくて、」

頭痛のせいでぼんやりとしか彼等の言葉が頭の中に入ってこない。出来るなら全部シャットダウンしたいんだが。
自業自得、か。俺の今の状況は確かに、他人から見ればそうなのかも知れない。だがどうでもいい。勝手にほざいてろ。
調子に乗りすぎなのはお前等だろうと心の中で吐き捨てた瞬間、――タラタラした声が、周りの罵声を遮った。




「あのー、会長さんもう食べ終わったみたいですし、これ以上何か言うの無意味じゃないスかねー」



(…、……は、)

驚いて視線をやった先に居たのは、いつもの様に無気力げな顔をして立っている、宮村だった。





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