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結局あれから例のごとくおにぎりを食し、少しだけ寝つつちょびちょびと仕事に手を出して(南に物凄く渋い顔をされた)、やっとこさ昼休みになった。

が。

「食堂に行くのか?恭夜」
「………やっぱり、止めといた方が良いか?」

南の心配そうな言葉に、俺は数秒考えた後眉間に皺を寄せて呟く様に答えた。お前が良いなら良いけど、と言う彼の言いたい事は分かる。学園全体の俺に対する風当たりが強い今、人目に晒されるのは俺の精神的にどうなんだという事を心配してるんだろう。
だが何と言うか、俺は今とりあえずまともな飯が食いたい。精神的云々言う前に、紫雲が先日言ってた様に栄養失調になるのも笑い事じゃあなくなってきたのだ。足元ふらつくし。

「……もう昼休みも最後の方だし、結構空いてるだろ。行ってくる」
「…ん、まぁ食べない方が健康に悪いしな。鬼嶋、恭夜と一緒に行ってきてくれるか。…俺が行くと立花が来そうだから…」

俺の言葉に頷きつつ、お気に召したのか三杯目の紅茶のおかわりをしている鬼嶋に声をかける南。心なしか立花の名前を出す度にげっそりした顔になる。ちなみに、翼は本当に涙ぐましい事にちゃんと間に合うように起きて授業に出に行った。彼は生徒の鑑だ。



生徒会室を南に任すわけにも行かないのでとりあえず施錠をして、俺達三人は部屋から出た。まぁ役員は鍵持ってっからいつでも入れるんだが。荒らされない様書類だけは金庫に入れておいたから、大丈夫だろう。
廊下の途中で南と別れ、鬼嶋と二人で食堂に向かう。その途中、生徒の視線はやはり不躾に突き刺さってくるが、それはむしろ俺にと言うより隣の鬼嶋に向けられていた。何で生徒会長とあの鬼嶋が、とあちこちで囁かれるのを無視して、食堂に入る。

俺の姿が見えた瞬間口をつぐむ奴等、はたまたひそひそと陰口の様なものを叩きこちらをちらちら見てくる奴等。
……何だか、人数が多いな。
予想が外れた俺は少々不機嫌になりながらも、鬼嶋を連れて食券を買うために機械の方に寄っていった。


「お前は何食うんだ、鬼嶋」
「………カレー」


カレーか。数ある豪華な食事の数々の中から最も庶民じみたカレーを選ぶのは、何とも鬼嶋らしい。
カードを忘れてきていた鬼嶋にカレーを買ってやり、俺は栄養のありそうな和食定食を選び受け取りの列に並んだ。……人が一斉に引いていったから、待つ必要は無かったが。ラッキーだと思っておく事にする。
おばちゃんから皿を受け取りながら何となしに食堂を見渡した、瞬間。

俺は見付けてしまった。



立花ご一行の、姿を。



(……なんっっで!!居るんだ!!!)
頭の中が一瞬停止した後、物凄い勢いの罵倒が脳内を駆け巡る。もう休み時間も終わりだろうが!!さっさと教室に帰って授業の用意をしろ!!…授業に出ていない俺が言えた義理じゃあねぇんだが。思わず天を仰ぎながら、俺は先程別れた幼馴染の姿を思い浮かべた。お前が来なくても立花はいやがったぞ、南。
見えるのは立花に長谷川に真壁、それと宮村。宮村が見えた瞬間少しだけ心が落ち着いたが、ハッと思い当たり生徒会専用のブースに視線を移した。…移さなきゃ良かったと思った。
副会長の東條、会計の萱嶋兄弟、書記の篠山がお揃いで眼下にいる立花を眺めながら、食事をしていた。いると思ったよこの金魚のフン共め…!だから人が多いのか。

「……鬼嶋、ちょっと俺の前に立って壁に……何してんだお前」

げんなりしながら鬼嶋を盾にしようとそちらの方を見やると、何故だか奴は携帯と格闘していた。しかも今時の若者らしからぬ簡単ケータイ。何やら作業をやり終えた彼は満足げに頷き、カレーをとって早く行くぞと目を向けてくる。このマイペースっぷりを、何とかしてくれ。

とりあえず俺は宮村のポジティブさを思い出し、平常心を保って出来るだけ冷静に対処しようと決めた。和食定食を取り、まさか生徒会専用ブースに行くわけにも行かず適当な席に鬼嶋とつく。目下の作戦は『早く食って帰る』だ。出来るなら味わって食べたかったが致し方ない。
いただきますと二人で手を合わせ(鬼嶋がやってると何となく違和感がある)、箸をとって食べ始める。………やっぱり、うまい。流石プロが作ってるだけある。
食事の素晴らしさをジーンと噛みしめつつ、だがしかし早めに口に箸を運んでいた、その時―――


「なぁ、…きょ、……恭夜!」


…話し掛けられたくない人物が、話し掛けてきた。何故だ。何故お前は、俺のやって欲しくないと思う事ばかりをするんだ。
無視しようかと思ったがまたまた宮村の言葉を思い出し、俺は我慢してちらと横目で机の側に立っている――立花を、見た。ここで無視したらもっと面倒な事になる。
緊張した様子で俺を見てくる、立花。そう言えば俺が突き飛ばして以来話してなかったな。間近で見ると本当に美形だ。
それは良いが、彼の後ろに居る長谷川と真壁の射殺してきそうな位の憎々しげな目線がうぜぇ。その後ろで眉尻を下げて立っている宮村に気付き、成る程注意しなければスルーしてしまう位の影の薄さだと失礼な事を思ってしまった。

「きょ、恭夜!聞いてるか?」
「………あ?」

立花の声に目をぱちくりと瞬かせ、そちらに視線を戻す。全く聞いてなかった。
と、彼が何故かお盆を持って立っている事に気が付き、俺は思わず眉をひそめる。………。…………いやいや?
思い当たった考えにそれは無いだろうと、心の中で否定した、瞬間。



「い、……一緒に、飯、食おうぜ!」
「………」




立花の声が、静まり返っていた食堂に響いた。



……俺は、どうすれば、いいんだ。





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