新入生歓迎会が終わりほっと一息ついていた4月の中旬、突然奴はやってきた。
どう考えたってこの時期の編入は普通じゃない。しかもこの学園の編入テストの難しさは他校のそれとは比べ物にならない程のものの筈だ。
そんな難関も見事オール満点という驚異的な点数でクリアし、彼―――立花楓は、この学園の門を悠々とくぐり抜けた。



俺の平穏を、壊しに。






『王道転校生ね』
「…あん?」


理事長から編入生の存在を聞かされ、はあそうなんすか、みたいな生返事でその部屋からとっとと退散した俺は、従姉の美樹と電話で話していた。
ご察しの皆さんもいるだろうが、美樹は所謂腐女子だ。学園で何か変わった事があれば即刻連絡するよう言われていた俺は、律義に今回の事も伝えに携帯のアドレス帳を開いてやったのだ。彼女との約束を破ると後が怖い。
話を聞き終えた美樹がまず嬉々とした口調で発したのは――先程の、よく分からん言葉だった。


「…何だ?王道が何だって?」
『だーかーら、王道転校生!変な時期に編入してきて学園の人気者・有名人を次々に虜にしていく子の事よ』
「……………………はあ?」


分からねぇ。意味が。
そんな人間が王道なのか?そこらへんにごろごろいるって事なのか?信じられない。いや、信じない。そんな事があってたまるか。
『何よ、私を疑うわけ?じゃあ、そうねー…その転校生、理事長の甥っ子って言ってなかった?』
「………」
………言ってた気もする。ろくに話を聞いていなかったから曖昧だが。もうすぐで全学年の交流会なんつーものがあるから頭はその仕事の事で一杯だ。
学期始めは忙しいんだよくそ、なんて心の中で吐き捨てた後、俺は携帯の向こう側の人物にそうだった気がすると返した。

『やっぱり!!あ、後ね、転校生はきっと黒い毛むくじゃらのマリモみたいな子よ』
「はぁ!?なんでそんな奴がモテんだよ!」
『そこが王道転校生の凄いところなのよ。見た目より中身って事ね』
「………………」

もう反論する気も失せた俺は、その後美樹から今後起こるであろう事を事細かに教えられた。
その中には生徒会長、つまり俺が二日目の昼に食堂に行きその王道転校生を気に入ってキスをかますというおぞましい予言もあったので、俺は明日は絶対に食堂には行くまいと心に誓った。



そして、その後。
美樹の言葉はその通りになった。
噂の転校生は初日で偶然出会った副会長の胡散臭い笑顔をズバリ指摘し気に入られ、クラスメイトの一匹狼も手懐け、担任のホスト教師に押し倒されかけ(もう説明するのが嫌になってきた)、俺が行かなかった食堂では双子の会計を見分けるという偉業を果たし、チャラ男の書記も落としたという噂が3日で学園中に広まっていた。
俺がそいつを見た事なんて一回か二回位だが、その姿はまさに美樹が言っていた通りのもじゃもじゃ野郎だった。恐るべし腐女子。




で。




そこまでは良いんだ。そこまでなら、許す。
誰が誰を好きになろうと俺には関係ねぇし、知ったこっちゃない。


でも、当然の如く事態はそれだけで終わりはしなかった。


俺を除く生徒会役員が皆、朝から晩まで楓楓、楓一筋になってしまった事が大きな問題だった。転校生に構いっきりで仕事を殆どしなくなったのだ。
勿論それは、あの転校生が悪い訳じゃあねぇ。役員が責任感を持ってこのポストに就いていないってだけで。
まああんなランキングで選ばれただけだから責任感も何も無いのかも知らねぇが。
しかも奴等は生徒会室にあの転校生を連れ込む始末。完璧なる規約違反だ、部外者は入れてはいけない決まりなのに。
それを全く悪びれもせず、俺が必死で仕事をしている横でギャーギャーと騒ぎ立てる毎日。マジ心底うぜぇ。煩いのが大嫌いな俺に対する嫌がらせか?
始めの頃こそ注意(少々キレ気味に)していたが全く聞く耳持たずな奴等に最早諦めの境地だ。
百歩、いや一万歩譲ってここにいる事を許すにしても、仕事をしろ。頼むから。
何で俺が、この俺が、こんな目にあわなきゃならねぇんだ?理不尽な扱いにこの短気な俺もいよいよ臨界点を突破しそうだ。まあいつも簡単に突破するんだが。
抑えきれない怒りに思わず右手に力がこもり、――…途端、鉛筆がボキ、と鈍い音をたてて折れた。………苛々してる時はシャーペンを使おう。




「なぁ!なぁなぁ恭夜!お前もこっち来て一緒に話そうぜ?」
「………あ"?」





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