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週末がやってきた。

土曜日でも休めない状況にいる俺は生徒会室に普段通りに来て、仕事をしていた。今日は宮村陽介の部屋を訪ねる予定だが、午前中に行くのも何なのでとりあえずは2時位に行こうかと考えつつ、書類の山を減らそうと頑張っている最中である。
休みの日にまで親衛隊のあの三人を手伝わせる訳にもいかねぇから、今部屋にいるのは俺と翼、それと――

「あ、の……かか会長、」
「あぁ?何だよ」

変にどもっている翼に片眉を上げて視線をやれば、何故か奴は顔を青くさせている。…何だ、どうした。一つ聞いても良いですかと言ってくる翼によく分からないが頷けば、彼はソファに向かってギギギ、と妙な効果音がつきそうな動きで首を回し、口を開いた。
「あ、ぁの……何で、鬼嶋がいるんスか」
「………あぁ。助っ人だ」
「スケット!!??」
その事かと納得しながら淡々と答えれば、翼は目玉が飛び出るかと言う位に驚いていた。別に前にも一回手伝わせた事はあるし、そんなに驚く様な事じゃあねぇだろう。そう言ってもいやそうですけど、と何だか信じられないものでも見るような目付きで彼を見ている。その視線に気付いた鬼嶋がギロリと睨み返してきた瞬間、「ヒッ」という短い悲鳴と共に書類処理に没頭しているフリをしていたが。お前は本当にビビりだな、翼…そんなところもお気に入りだったりする。



鬼嶋は、よく働いてくれていた。
ちょっとの事で直ぐにキレそうになるのは頂けないが、大体の事は食べ物を与えれば治まる。ちなみにこれは廊下で偶然会った黒井からのアドバイスだったりするんだが。そんな理由から現在、俺の右ポケットにはポッキーが常備されている訳だ。
「おい、…これ、出来た」
「あ?あぁ、サンキュ。ちょっと休んでて良いぜ」
「……あぁ」
こくりと頷いた後はソファの上で小さな欠伸をしつつボーッとし始めた鬼嶋は、とてもじゃないが全校生徒に恐れられている存在とは思えない。人は見掛けに寄らねぇって事だな……まぁそんな事は紫雲との出会いで痛い程分かってんだが。
一人頷きつつも意識を机の上の書類に戻し、止まっていたボールペンを動かし始める。同じ様な作業を淡々と繰り返しながらも、一つ一つの内容は勿論違う。余計な間違いをしないようにと神経を尖らせながら仕事をするのは大分疲れるが、直す手間を考えれば幾分かマシだ。
それから何分過ぎたか分からないが、不意にコンコンと机を叩かれ、俺は顔を上げた。目の前には翼の顔。

「会長、そろそろ」
「…あ?…あぁ、もうこんな時間か」

時間を気に掛ける事が出来ない俺に代わって、時刻を知らしてくれるのは翼の役目になりつつある。時計を見やれば一時四十五分。幾らなんでも昼飯だって食べ終わった頃だろう。書類を手早くまとめて立ち上がる。
「じゃ、ちょっと行ってくる…鬼嶋、ついてこなくて良い。俺が寮に行こうとしてる事なんて相手は知らねぇんだから、むしろここに居ろ」
「……分かった」
俺が席を立ったのを見て腰を上げかけた鬼嶋を止めれば、彼はゆっくりと頷いた。その言葉に翼は「え、二人っきり…!?」と怯えた様な顔をしたが、無視。仮にも不良の端くれなんだからシャンとしろ。


生徒会室を二人に任せ、俺は足早で歩きながら携帯を取り出した。手慣れた操作で一人の人間の番号を出し、電話を掛ける。コール二回で相手は出た。

『おー、恭夜。あいつ等部屋に居るぞ。宮村の姿は見なかったから、多分自室にいるはず』
「そうか、サンキュ。じゃあまた、」
『今度宮村君紹介してくれよ』
「自分で話し掛けろ」

軽口を叩いた後南との通話を切って、俺は前を向いて歩を進めた。無駄足は出来るだけ踏みたくない為、彼に奴等の行動を見てもらって居たのだ。
何故だかアイツは宮村に興味があるらしい。まあ俺も人の事は言えないが。

(……――宮村、陽介か)

心の中でこれから会いに行く人間の名前を呟く。どういう人物なのか、書類を見た限り特別何も無さそうな感じを受けたが、何故だか無性に気になる。
疲れ気味の目を少しだけ擦りながら、俺は寮へと急いだ。




****



「だからあああここは右にジャアアアンプするんだって!!!何故ならミカたんのスカートがちょっとだけ捲れて太股を拝めるから!!!ハァハァ堪らん!!けしからんぞおおもっとやれ!!!!」
「ちょっうるせぇなテメェは!コントローラー振り回すなアホ!」
「何……ここでジャンプ?ジャンプどれだっけ、Bボタン?」
「…え、冗談だろ???なあ冗談だろ???Bボタンがダッシュだってのは周知の事実じゃん???日本人で知らないワケないじゃん!!??おいちょっと一輝雑音防止のヘッドフォンつけんなばあか!!」
「Bダッシュって赤いおじさんのゲームでだけじゃねーの?難しくて分かんね、もーいーや」
「諦めるなよォォ!!!諦めたらそこで試合は終了なんだぞ!!!バスケ漫画読めあほんだら!!!」

「………」


…意外に早く、宮村陽介を見付けた。いや、あぁ、見付けたんだが……話し掛けたくない。凄く。
彼は部屋ではなく、寮のラウンジにある大きなテレビの前で、何だかよく分からねぇがフリフリのスカートを着た女が戦っているゲームをしていた。していたと言っても隣の人間に無理矢理やらされてる感じだったが。
三人でだだっ広いラウンジを我が物顔で占領している彼等。宮村以外の二人にも、俺は見覚えがあった。この学園でそこそこ有名な部類に入る奴等だ。

さっきからやたらと煩く騒ぎつつ、テレビ画面に目が釘付けな男の名前は、三年の前田雄太郎。
それなりに整った容姿をしているくせに生粋のオタクであるが故に、取り巻きが物凄く少ない。そんなところも好き!というコアなファンも居るらしいが。ちなみに漫研の部長だ。
もう一人のヘッドフォンを聞きながら雑誌を捲っている金髪は、同じく三年の原田一輝。
去年の文化祭で催されたのど自慢大会で優勝した奴だ。余りの上手さに泣き出した奴が居たらしく、聞き逃したのを惜しく思ったのを覚えている。


この三人が友達だったとは知らなかった、余りにも異様な組み合わせだ。そもそも宮村とあの二人は年齢でさえ違うのに、随分と親しそうだ。まぁ他人の交友状況に部外者の俺が何かを言う権利は無いんだが。

どうしようかと思いながら彼等の後ろで突っ立っていれば、不意に宮村が背伸びをしつつこちらを振り向いた。その目が俺を視界に入れた瞬間、驚きに丸くなる。その表情のまま彼は、タラタラした口調で俺に言った。




「こーんなトコで何やってんスか、会長さん。一緒にゲーム、しますか?」




その予想外の問いに俺は面食らい、一瞬の間の後、遠慮しておく、と微妙な返事を返してしまったのだった。






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