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「…お前…何やってんだ、鬼嶋……」
至極当たり前の質問を口にしながら、南は倒れ伏している3人を少しだけ憐れみの含んだ視線で見やった。襲われた俺でさえ同情する位のこてんぱんっぷりだ。鬼嶋がこれをやったのは間違いないだろう。
当の本人は南の質問に数秒考えた後、何故か知らねぇと首を横に振った。
……はあああ?

「おま…自分がやった事に対して知らねぇとかほざくな、とりあえず何があったのか説明しろ」

眉間に皺を寄せつつそう奴に言えば、心底面倒くせぇみたいな顔をされる。相手があの不良の頂点的なものでめちゃめちゃ喧嘩が強い事も忘れて殴りかかりそうになったじゃねぇか、畜生。南が止めてくれていなかったら危なかった。俺が。
そんな態度をとりながらもとりあえず鬼嶋は宙を眺めながら、口を開いた。




「――…アンタと会った後、一回風紀委員室まで戻ってー…」




****


「遅かったな、鬼嶋。会えたのか?」
「………あぁ」

部屋に戻った鬼嶋を迎えたのは、あちらこちらに走り回る委員達とその中央で机を構え、物凄い勢いでパソコンにデータ入力をしている黒井の姿であった。近くのソファに風間がだらだらと寝転がっていたが、鬼嶋は存在を無視している。
目線はパソコンの画面に注がれているが淡々と他の委員に指示を出す黒井を立ったまま見ていれば、彼はそれで、と声を発した。

「あいつは平気そうだったのか?また無茶をやらかしていないだろうな」
「ははっ、委員ちょーおかんみてー」
「煩いぞ、風間。仕事は終わったんだろうな?終わったなら次のをやれ」

ケラケラと笑いながら茶々を挟んでくる風間を一刀両断すれば、彼は口を尖らせてタルそうに他の書類に手を伸ばす。そんな風間をことごとく空気の様にスルーしながら、鬼嶋は先程会った生徒会長の様子を思い返しつつ口を開いた。
「……目の下に、隈があった」
「寝てないのか…睡眠を削るなど言語道断だな。仕事に支障が出る」
「…後、今日は他に誰もいねぇって」
「何?」
初めてパソコンから顔を上げ、眉をひそめて訝しげな声を出す黒井に、鬼嶋は詳しい事は知らないと首を横に振った。そんな彼にそうか、と短く返し、黒井は考え込む様に目線を伏せる。
すると、聞き耳をたてていた風間がだらだらソファに寝転がったまま、それってェと声を上げた。

「不味いんじゃないスかねェ。っつーか前から思ってたけど、あの人無防備すぎっしょ。生徒会室のドア、会長が居る時は何時でも開いてっしィ」

自分が狙われてる事本当に分かってんスかねぇ、とぼやきつつ再び書類を眺め始める風間の言葉に、黒井は溜め息をついた。次いで、鬼嶋に目を向け口を開く。
「――鬼嶋。お前はしばらく、生徒会室に居ろ。そこの仕事を手伝いながら、御堂島の傍に居るのが当分のお前の役割だ」
「ナニ、護衛?遥ちゃんにそんなかっこいー事出来んスかァ?」
「あ"ぁ…!?ブッ殺すぞてめぇ…!」
「喧嘩をするな。風間、余計な事を言って鬼嶋を煽るんじゃない」
素早い黒井の牽制に一先ず戦争が行われる事は無かったが、二人共若干不機嫌な様子でそっぽを向いた。見た目だけは立派なくせに中身は誰よりも幼稚な奴等だと、黒井は息をつく。
次いで再び鬼嶋と目を合わせると、軽く顎を引きながら、言った。



「……兎に角、鬼嶋、任せたぞ。くれぐれも言っておくが、生徒会室で暴れるなよ」




****




「……で、生徒会室にまた来たらこの馬鹿共がうろついてたからとりあえずぶっ飛ばしておいて、やる事も無いから書類整理をしていたと」

俺の言葉に鬼嶋は頷き、南は何だかじーんとした様に黒井は良い奴だな、と呟いた。いや、それよりもまず風間の失礼な発言だろ。今度会ったらつねってやる。
俺は思わず溜め息をつきながら髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き揚げた。護衛だと?冗談じゃあない、何処のお奉行なんだ。

「…気持ちは有り難ぇが、そんなもんいらねぇ。今度から気を付けりゃ良い話だ、お前は戻って風紀の――」
「俺は賛成だな」

みなまで言わせずといった口調で俺の言葉に被せてきた南に、ぎょっとして視線を送る。何馬鹿な事言ってんだ!
「ふざけんな馬鹿、俺だけ風紀から特別扱いを受けてるなんて知れ渡ったらそれこそ分が悪くなんだろうが。護衛なんざいらねぇ、自分の身は自分で守る」
「別に、『護衛』でここに居るなんて事は伏せときゃ良い。風紀は生徒会に一番近い生徒側の組織だ、ここに入るのも仕事関係なら許されてるだろ?名目なんていくらでも作れる」
「……っ分かんねぇ奴だな、俺は誰かに守って貰うなんて御免――」
「恭夜」
やけに真剣な声が俺の言葉を遮った。片眉を上げて南を見れば、少しだけ歪められた表情の中に必死さがあり、思わず口をつぐむ。
……それは、ずりぃだろう。

「…頼む、恭夜。お前の言い分も、分かる。別に本当に鬼嶋を護衛にしろなんて言わねぇ、でも…仕事を手伝わせる位なら、良いだろ?」

生徒会役員でも風紀のメンバーでも無い南は、生徒会室に余り長くは居られない。心配なんだ、と呟く様に言う彼に数秒間、俺は黙った。――深い、溜め息が出る。

「…分かった。鬼嶋、仕事を手伝ってくれるか。簡単なもので良い」
「…ん…あぁ」
「!恭夜、」
「うるせぇ、別にお前と黒井に従ったワケじゃねぇぞ。仕事は分けた方が楽だって事に気付いただけだ」

鼻を鳴らしながらそっぽを向けば、南の何とも嬉しそうなそうだな、という声が聞こえた。鬼嶋は自分の役割が決まった瞬間会話には興味を無くしたらしく、書類をペラペラと意味もなく捲っている。



俺の周りにはお節介をしたがる奴がやたら居るらしいと、一人心の中で溜め息をついた。





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