扉を開け放しズカズカと無遠慮に部屋に入り込んできた男達は、全員で三人だった。3年F組の生徒だろうと見当をつけつつ、微かに後退りをする。震える身体を叱咤しながらも彼等を睨み付ければ、にやにやとした嫌な笑みが更に深くなった。

「すげぇな、かなり効いてるみたいだぜ。会長サン色っぽー」
「人が来る前にヤっちまおうぜ」

さんせーい、とふざけた調子で此方に近寄ってくる男達に、恭夜は荒くなる息を必死で抑えながら何とか逃げる手段を探していた。先程の会話から彼等が役員の差し金だと言う事は最早覆しようも無いが、この際今はそんな事はどうでもいい。
逃げなければ、ヤられる。冗談では無い。
そんな事になる位なら舌を噛みきって死ぬ方がマシだと、恭夜は心の底から思った。
ちらりと横目で後ろを見やれば、備え付きの小さな電話。情けないが今は、誰かに頼るしか道は無かった。ここから扉まで走って、彼等を振り切る自信はない。
バレない様にジリ、と小さく足を一歩後ろに下がらせた、――その、時。
「っい、な…ッ!?」
目敏く恭夜が何をしようとしているのかを察知した一人が、乱暴に恭夜の腕を掴み、近くにあったソファに引き倒した。狭いそこに無理矢理押し付けられ怒声を上げかけた瞬間、後ろから手で口を覆われンン、とくぐもった声に終わる。もう一人が制服の襟に手をかけ、思いっきり左右に引っ張った。弾かれるボタンに暴れたが、「大人しくしててねー」なんて声と共に後ろから首筋に噛み付かれた瞬間、全身に熱が走り微かな悲鳴が喉から漏れる。

激しい嫌悪感。未だかつて味わった事の無い屈辱に、身体が震えた。
例えようもない怒りが、奥底から沸き上がる。


「おい、ちゃんと撮っておけよ」
「わーってるって。セット完了〜」
「ッ、……っ!」


聞こえてきた言葉にハッとして側で立つ男の方に横目を向ければ、ビデオカメラを此方に向けて楽しそうに笑っている姿。犯されているところをビデオに映し、自分を脅そうとしているのだろう。憎悪に満ちた目で睨み付けたが、おどけた様に怖い怖い、と言われただけであった。完全に、ナメられている。
と、いきなり馬乗りになっていた男が素肌が露になった身体に手をするりと這わせてきて、身体がびくり、と大きく跳ねた。
「は…すげ、かわいー反応。俺もう勃ってきたわ」
「前から一回犯ってみたかったんだよな〜。おい、早くしろよ」
「焦んなって」
「ッ、ンっ…!?んグ、ンッ!」
胸の突起を摘ままれ、抑えられた口から微かにくぐもった声が出る。薬のせいとは言え、こんな奴等に触られて感じている自分が信じられなかった。
生理的な涙がじわりと浮かんできたが、決して溢すまいときつく目を瞑る。身体が反応しても、不快感は決して消えない。ざわりとした舌を首筋に這わせられ、足がひきつった。

――気持ち悪い。

「下に行けよ、時間ねぇんだから」
「んだよ〜もっと楽しませてくれたって…チッ、仕方ねぇな」


気持ち、悪い。


「口から手離しても良いんじゃねぇ?俺会長サンの啼いてる声聞きてぇんだけど」
「叫ばれたらどうすんだよ」
「誰も来ないだろ、こんなトコ」




…気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!




全身でそう叫んだ瞬間ガリッ、と無意識に口を押さえていた男の手に噛み付いていた。いきなりの反撃に弾かれる様に離れる相手。
「なんッ…っ!?」
「っ俺に、触んじゃねぇッ!!!」
全身の力を込めて乗り掛かる男の腹を蹴り上げれば、どうやら丁度鳩尾に入ったらしい。彼はぐぅっとひきつった声を出し、その場に蹲った。それを見て我に返った男が背後から押さえ付けて来ようとしたが、側にあった分厚い書類を掴み渾身の力で脳天に叩き込めばズゥン、とした衝撃が頭に走り崩れ落ちる。余り強いダメージは無いが、数秒は動けない筈だった。
力の抜ける身体を無理に持ち上げ、床に足をつける。それだけでビクビクと背中が痙攣するが、何とか立ち上がった。
突然の事に付いていけていなかったビデオの男が慌てて掴みかかってくるがそれを避け顔面に肘を打ち込む。呻きながらよろける彼の手から落ちた機器を容赦無くガシャンと踏みつければ、それは見るも無惨に壊れ果てた。


震える足を引き摺りながらがむしゃらに部屋から飛び出し、罵声を背中に浴びながら廊下を駆ける。崩れ落ちそうになる身体を叱咤して、壁に手を付きながらも恭夜は必死で進んだ。追いかけて来られたら、終わりだった。二度目はもう無い。

熱さに朦朧とする頭の中で、何処に行けばと考える。一番近くにある風紀委員会の部屋が咄嗟に思い浮かんだが、直ぐに消した。こんな事で黒井に迷惑は掛けたくなかった。
南に電話しようかとも思ったが、携帯電話は生徒会室に忘れてきたらしい。どうすればいいと、らしくもなく焦り始めた。
トイレに行って見付かりでもしたらもう逃げられない。安全な、所。寮は。否、余りにも遠い。

(…くそ、)


霞む視界に舌打ちをして、何度も立ち止まりそうになる足を前に出す。尋常では無い汗が頬を伝い、床に落ちていく。先程暴れたせいで、薬が完璧に全身に回った様だった。


―――あそこしか無い。


一度目を瞑り、恭夜は荒い息を抑えて吐き出した。この際、彼等から逃げられるならばもう、何処でも良かった。贅沢など言ってられない。
目的地を決めた恭夜は足を引き摺りながら、再び進み始めた。






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