東條から痛い程の視線を背中に受けつつ生徒会室に戻った俺は、書類と睨めっこしている翼を横目に見ながら宮村陽介の個人資料に目を通し始めた。写真に映るその顔は、やはり名前と同じく見覚えがある様な気がする。
廊下ですれ違った程度の印象かも知れないが、極々平凡な顔をしている為全く記憶が曖昧だ。やる気の無さそうな目だな。
うーんと唸った後、俺は一旦顔を上げて翼を呼んだ。
「翼」
「はい?」
「お前、宮村陽介の事知ってるか?」
「立花の同室者ですか。えーっと…いやー…アイツ…うん?…なんかあんまり印象に…なんつーか、こう…」
…言い淀む翼の考えてる事は分かる。影が薄いって言いたいんだな、うん。何故こいつが虐められているのか甚だ疑問だ。まぁ立花の同室者で、奴に巻き込まれながらあのランキング上位者共と一緒に居る羽目になっているからだろうが。その割に姿を見たことが殆ど無い様な気がするのは何でだ。
何はともあれ、本人から話を聞きたい事は変わらない。

「会いに行ってみるか…いや、でもこいつが居るって事は立花も居るって事だよな」
「あー、そうっスね……」

顔をしかめる俺に同意して翼が頷く。教室も部屋も立花と一緒であるというこいつに心底同情するな。まあ本人がどう思ってるかなんて分からねぇが。
さてどうするかと椅子の背もたれに体を預けながら考えていれば、そう言えばと翼が何かを思い出した様に声を発した。
「立花って休日は会計の部屋にずっと居るみたいですよ。あの人らと一緒に」
「会計の?……あぁ」
生徒会役員の部屋は一般生徒とフロアが違っており入ってはいけない決まりだが、今更だなと息をついた。思い返せば確かに休日のあいつらの部屋は騒々しかった気がする。恐らく長谷川と真壁もくっついて行ってるんだろう。
しかしならば話は早い、休日になったら宮村の部屋を訪ねてみれば良い。彼も双子の部屋に行っているんだったらまた別の手を考えるか、立花を空気として見て接触するしかないが。


そこまで考えてから俺は個人資料のファイルを閉じた。この事に何時までも時間を割いている訳には行かない、宮村の事は一先ず土曜まで保留だ。今は他の仕事をさっさと終わらせなきゃならない。本格的に体育祭が近付いてきたこの時期、交流会の時とは比べ物にならない程の仕事があるのだ。
っし、と一人気合いを入れ、ペンを握り締めた時だった。

コンコン、と小気味の良い音を立てた後返事をする間もなく邪魔するよと、紫雲が部屋の中に入ってきた。お前それ、ノックの意味ねぇぞ。
顔を上げて彼を見やる俺の方に歩いてきながら、紫雲は口を開く。
「恭夜、仕事中に悪いんだけど、ちょっと君に会いたいって子達がいてね」
「…あ?誰だよ、手短に済ませろ」
「分かってるよ、…入っておいで」
ペンを横に置く俺に一回頷き、紫雲は扉の方を振り返りながらそちらに声を掛けた。数秒の間の後、少し開いた隙間からひょこりと顔を出すチワワみたいな生徒達。3人か。
何処かで見た事のある顔をしている、と思ったら俺の親衛隊に入っている奴等だった。確か、名前は―――

「ぁ、あの恭夜様…っ、いきなりすいません、僕達恭夜様の親衛隊の、」
「――花岡に並河に北城、…だろ。何の用だ」

記憶を探りつつ3人の顔を順に眺めながらそう言えば、チワワ達は一瞬唖然とした後、次いで顔を真っ赤にさせた。………林檎みてぇだな、おい。
同様に驚いている様子の紫雲が君は親衛隊の子の名前全員覚えてるのかい、と聞いてくる。…まあ、名字だけなら何となく分かるな。アレだけ周りうろつかれて夜のお供に!と名前を主張されたら誰だって覚えるだろ。
「ぁ、あ…有難うございますっ僕達なんかの名前を…嬉しいです…!」
「…、…お前等、まだ俺の親衛隊に居んのか?」
床を見詰めながら話す代表の一人――花岡に訝しげに思い、思わずそう聞いた。あの噂で俺のファンだった奴等はこぞって親衛隊を抜けたみたいな話を聞いたんだが、どうもこいつの反応は恋する乙女(男)にしか見えない。
俺に問われた彼は一瞬きょとんとした後、何故だか物凄く悲しそうな顔をした。それはもうこの世の終わりとでも言うように悲壮な顔をしていたので、聞いた俺が妙な罪悪感を感じた程だ。見れば隣の二人も同じ反応。…何なんだ。





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