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(…馬鹿馬鹿しい、)


冷たくひんやりとした感情が胸の内を支配する様な感覚。次いで嘲りにも似た笑いが込み上げてきたがそれは故意に無視し、ガムで綺麗な弧を膨らます風間にそうか、と呟く様な返事をした。
立花が生徒会会長。無い話では無い。
歴代、高2で会長になった例は数多くあるし、頭脳的にも悪くない。奴がトップになれば他の役員もやる気を出すだろう。
――立花が、ちゃんと仕事をするのなら、だが。

リコールの話を進めているのは主に副会長の、東條である様だ。気に入らない相手を徐々に追い詰めていく方法はいかにもあの腹黒らしいやり方だと思う。
「今は出来る限り会長の味方を減らそうとしてる段階みたいっスよ。噂が流れるのが早いのも、あの人が裏で手回してるんでしょーねェ」
「……ッハ、真正面からかかってこれねぇビビりのする事だな。…アイツは昔から、そんな奴だった」
目を伏せながらそう言えば、風間はふぅんとさして興味の無さそうな声で答えた。
…そういや今さらだがこいつ、何で俺にこんな話をするんだ。
目線を彼に戻し、首を鳴らしながら聞いてみた。
「…で、お前は何が望みなんだ。何の対価も無しにその情報は貰って良いんだな?」
「んー…ま、別に欲しいものなんざ今んとこねぇんだけど。俺はさ、アンタの事気に入ってっから、それなりに。だからこれは珍しい俺のお節介」
ふ、と何時ものようないやらしい笑い方ではなく、ちゃんとした笑みを浮かべる奴にゆっくりと瞳を瞬かせる。鬼嶋と並んで、やはりこいつも読みにくい奴だ。
パチン、と風間の膨らんでいたガムが弾ける。寄りかかっていた鉄格子からガシャンと音をたて離れ、彼はまあ、と呟きながらこちらに向かって歩いてきた。
「お節介ついでに、もう一個言って良いっスかねェ」
「……まだ何かあんのかよ」
溜め息をつきながらそう言えば悪い噂じゃあないっスよと返された。ふ、と影が出来目の前に奴が立った事を知らせる。顔を上げれば、妙に真剣な風間の顔。……何かこいつ、俺より少し背高くねぇか……いや、気のせいだな。
そんな下らない事を考えていれば、風間はゆっくりと口を開いた。


「……会長さぁ、何でそんな、頑張ってるワケ?」


――問われた言葉の意味が分からず、俺は訝しげに眉間に皺を寄せた。何がだ、あーもしかしてこいつアレか、黒井の差し金か?一瞬そう考えたが、相手の顔を見てそれは無いと判断した。
「…、…どういう意味だ」
「だからさァ、もう良いんでないって事。アンタが幾ら頑張ったって、生徒にゃ分かんねーんだよ。当たり前だよなァ、見えてねぇんだから」
「………」
「アンタは一生懸命身を粉にして働いてるっつーのにリコールの話まで出されて、ムカつかねぇの?そんな奴等の為に働くなんざ、俺なら御免だねェ。……もう、良いだろ。辞めちまえよ」
数秒の間の後、俺は一度瞳を瞬かせた。それから首を捻りつつ、相手の顔を見ながら口を開く。どうにもこいつのキャラがよく分からない。
「…お前、どうした?腹でも痛ぇのかよ、変なもん食ったのか?」
「ちょ、なーんでそうなるかなァ。失礼でしょ、会長サン」
「気持ち悪ィんだよ」
「きも……アンタ絶対、口から先に生まれたよな」
溜め息をつきながらそう言う風間にお前に言われたくないと思ったが、胸の内に留めておく事にした。
制服を翻しながら風間は俺から少し離れると、何時もと同じ笑みを浮かべた。相変わらず腹の立つ笑顔だが、やはりこっちの方がしっくりくる。
「まあ正直どうでもいいんですけどね、誰が会長でも。何も変わりゃしねぇっスよ、学園は今まで通り動く。この国だってそうでしょ、一番上が誰だろうととりあえず余計な事しなきゃ良いんだ。……だから、恭夜センパイ」

不慣れな呼び方に思わず少し片眉を上げる。何かを示唆している様な、その呼称。どいつもこいつも許可無しに名前で呼んでんじゃねぇよ。
カツリ、と彼の靴を鳴らしつつゆったりとした動きで風間は俺の横を通り過ぎた。耳を打つ、低音。




「この学園の会長は、アンタじゃなくても良い。……覚えときなァ」




重い扉を開ける音と共に、彼は屋上から去っていった。残された俺は一度息を吐き、空を仰ぐ。
微かに開いた唇から、そんな事は知っていると、小さな言葉が漏れた。





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