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全学年での交流会が催された次の日の土曜日、大きな仕事を終え久しぶりにゆっくり出来ると言うのに、恭夜は生徒会室にいつものように来ていた。
何をするでもなく、ソファに体を埋めて疲れた様にゆるゆると目を瞬かせる彼に、一緒についてきていた紫雲はちらりと視線を送る。
珍しくもどうやら大分参っている様な表情の恭夜に、持っていた本をパタンと閉じて口を開いた。
「どうしたんだい、恭夜。昨日何かあったの?交流会自体は何事もなく終わったって聞いたけど」
「……あったと言えばあるが、ないと言えばない……」
「随分曖昧だね」
紫雲の言葉に恭夜は唸るような声を発した後、むくりと起き上がった。酷い顔だよと覗き込んでくる紫雲をシッシッと手で追い払う動作をし、大きな溜め息をつく。

―――学年交流会は、上手く行った。何も起こらなかった。それは本当だ。が、今後問題へと繋がるであろう『何か』を残していった事も、また確かだった。

交流会で行なった事は所謂宝探し。それぞれ5人ずつの縦割り班を作り、チームで協力して学園の至る所に隠されている『謎』を推理し、宝を見付け出すというものだ。ちなみに恭夜と紫雲は監督という事で不参加だった。
5人の編成は風紀委員達が頭を悩ませて作った為、ネコだのタチだのの問題は数件を除き起こらなかった様だが――やってくれたのは、やはりあの、転校生だった。
やったと言っても彼が特別何か悪い事をした訳ではない。ただ、鬘が取れた彼は開き直って変装を止めたのだ。オタクだのマリモだの散々と馬鹿にされていた立花の変わりように、皆は呆気にとられた事だろう。変装と気付いていた人間でさえ、目を奪われる程に彼の顔は端正であった。
それだけなら数人の生徒に仰天された程度で昨日を終える事が出来ただろうが、今までの流れで分かった通り生憎現実はそう上手くもいかない。
すなわち、立花の5人チームに加え彼の取り巻き、つまりは副会長や会計や書記や長谷川とか真壁とかが自分のチームも巻き込んで立花についていき、総勢30人程の大移動をしていたという話が、本部で待機していた恭夜の耳に飛び込んできたのだ。
その瞬間、呆れからの盛大な溜め息を彼がついた事は言うまでもない。
そんな集団が目立たない訳も無く、そうなれば自然と見慣れない美形に目が行く。人の噂が駆け巡る早さは尋常ではなく、…昨日一日で、立花楓の著名度は飛躍的に上がったのだった。


そこまで話を聞いた紫雲はあの子がねえ、と小さく呟いた。紫雲も変装を解いた後の立花の姿を見はしたが、専ら恭夜にしか興味の無い彼にとっては甚だどうでも良いことだったのである。
「……で?それだけなら問題ないんじゃない。ただ立花クンが本当は美形でした〜って、分かっただけでしょ?」
「…そうだな…顔が良いってだけで、アイツへの陰湿な虐めも減ったし、むしろこれから人気が出てくるだろ」
「あーそうだね、この学校の生徒は変わり身が早いから。立花クンの事虐めてた子でも親衛隊に入っちゃいそうな位綺麗な顔してたしね。ハーフって狡いなあ」
「人気が出すぎるのも問題なんだ」
「ん?何でだい」
苦虫を100匹程噛み潰した様な顔をしている恭夜は、自身の髪の毛を無造作に掻き上げながら、吐き捨てる様に言った。


「嫉妬する馬鹿が居るだろうが!」
「……あぁ」


紫雲は納得した。
嫉妬とは、これまでの様に誰かが立花に嫉妬するという事ではない。彼に惚れている人間達が、美形だと分かった瞬間身を翻し始めた周りの生徒を疎ましく思うであろう事を、恭夜は言っているのだ。
「ぜってぇ立花にずっと引っ付き始めるに違いねぇよ……仕事しろ畜生!読みてー本があんだよ!」
枕にばふんと顔を埋める恭夜に紫雲は苦笑する。無理もない、交流会が終わったと言えど目の前には体育祭が迫っているのだ。休んでいる暇は無い。

「体なら癒してあげるんだけどね」
「……、…タチしかやらねぇんだろうが」
「うん。恭夜は何時になったら僕に抱かれる気になってくれるのかなー。君を守る為に親衛隊隊長にまでなったのに」
「俺は抱かれる趣味はねぇ」

ふんっと小さく呟き、もぞもぞと横になろうとする恭夜を微笑みながら見て、紫雲はお休み、と歌う様な綺麗な声で言った。
数分の後、静かにすー…、と寝息が聞こえ始め、彼が眠りに入った事を知らせる。恭夜の横顔を思わずニコニコして見詰めながら、紫雲はふと先程の話を思い出した。

副会長や双子の会計は、人一倍執着心が強い。立花に群がる人間達を近付かない様にさせるだけならば良いが、それ以上の事をしでかしそうな気がしてならない。
僕の恭夜をあんまり疲れさせないでくれないかなあ、と一人ごちた後、紫雲は再び閉じていた本をゆっくりと開いた。




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