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波乱は直ぐにやって来た。


篠山と生徒会室で話をしたその3日後、俺は昼飯を買おうと購買に訪れていた。
人が少ない時間帯を狙った筈だがそれでもそこかしこでキャアキャア上がる黄色い声を無視し、棚の前に立つ。金持ち校の購買なだけあってパンやオニギリの種類も豊富だ。…キムチ焼き肉味、だと…今度試してみよう。
明太子かツナマヨかどちらにしようかと真剣に悩んでいた時、後ろからポンッと肩を叩かれた。反射的に振り向いた瞬間、


プニッ


「………」
「おお。柔らかいな、お前のほっぺ」
古典的なイタズラにイラッとして、人差し指でぷにぷに押してくる南の右手をはたき落とす。この俺に何をしてんだ。
いてーなーと言ってくる南をとりあえず無視し、ツナマヨに決めた俺はレジに向かいちゃっちゃとカードで支払いを済ませた。このカード本当に便利だな。
「恭夜昼飯オニギリ一個かよ、もっと食えって。健康に悪いぜ」
「うっせ、良いんだよこれで」
ビニール袋を持って購買から出れば、南が後を着いてきながらそう言う。別に俺は小食な訳じゃあない、ただ日によって食べたい時と食べたくない時があるだけ。
教室にもそろそろ顔を出さなきゃなとぼんやり考えつつ、南と軽い言葉を交わしながら廊下を歩き出した時、だった。


「あっ!居た!!!」


聞き覚えのある声に咄嗟に全力で逃げ出しそうになったが、隣で歩いていた南が不思議そうな顔で振り向き立ち止まった為そうも行かずに、足を止める羽目になった。
後ろをちらと見やれば、…案の定、立花の姿。南は奴の姿を認めると俺を呼び止めたものと勘違いして呼んでるぞ?とこちらに目を向けてきた。ちげぇよ馬鹿、黒縁メガネの奥の目がキラキラ輝きながらお前を見てるだろうが。
しかも立花だけならまだしも、後ろから奴のお仲間である一匹狼な長谷川疾風と、糸目な真壁達也が腰巾着の様にくっついてくるのが見えて俺はげんなりした。噂によればあの二人も立花にお熱らしい。なんて面倒くさい状況なんだ。

走って俺達の目の前まで来た立花は、目をパチパチさせている南に向かってニコニコして口を開く。俺の事は完全に無視の様だ。
「な、アンタが鹿川南だよな?俺は立花楓っつーんだ!宜しく!」
「…え、俺…か?…ぁ、あぁ……?」
いきなり立花に話しかけられ戸惑った様にしながらも、とりあえず返事をする南。お前いきなり呼び捨てられて、しかも後輩のくせに敬語なしなのに怒んねぇのかよ…優しすぎるのも困りものだ。
俺と奴にくっついてきた二人の不機嫌そうな様子にも気付かず、ついでに周りでざわざわと騒ぎながら俺達を見るギャラリーも無視し、立花は南をそれはもうヒーローを見る様な目で見詰めながらあのな、と声を発した。

「この前俺のダチ助けてくれたんだろ?お前良い奴だな!な、俺と友達になってくれよ!」
「は?いや、ちょっと待て何の話…」
「俺の事は楓って呼んでくれな!あ、南って呼んでも良いか?」
「え、ちょ……ええ?」

全く話を聞かない立花に南は完全に困っている。周りも煩くなってきたな…「南様にあんな口きくなんて信じられない」とか何とか聞こえるし。これは不味い、反感を買うだけだ。
眉尻を下げて情けない顔をしながら暗に助けて、とこちらを見てくる奴に溜め息をついた。横槍を入れるのは好きじゃないが、と言うより余り立花とは関わりたくないんだが、仕方ねぇ。そう考えて俺は一歩前に、足を踏み出した。

「おい、…立花楓。通行の邪魔だ、友達申請なら日を改めろ。それとこいつは一応お前より年上なんだから、敬語を使え」
「っ、きょう……、…居たのかよ」

髪をかき上げながら溜息交じりに横から口を挟めば、立花は初めて俺に気付いた顔をして少々ビビり気味に俺を見てきた。どうやら生徒会室での一件は忘れちゃいないらしい。猿にしちゃあ上出来だ。が、奴が怯んだのも一瞬の事だった。直ぐに立ち直り何時もの強気な態度になる。見下ろす俺に負けじとキッと睨み付けてきて、奴は口を開いた。
「何だよっ、俺は今南と話してんの!お前には関係ないだろっ」
「関係ならある。こいつは今から俺と昼飯を食うんだ、邪魔すんな」
「そんなの後でで良いだろ!俺は南と仲良くなりてぇんだ、そっちこそ邪魔すんなよ!」
ギャアギャアと騒ぎ立てる相手にうるせぇ、と眉をひそめながら反論しようとした時だった。
怒った立花が俺を無視する事に決め、南に「あっちで話そうぜ!」と彼の腕を不意に取り、引っ張った。瞬間、南の顔が強張るのを見―――俺の体は、無意識に動いていた。頭の何処かで止まろうとしたが、それは叶わず。




ドンッ




気付けば俺は、立花の事を突き飛ばしていた。






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