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沈黙にまず耐えきれなくなった翼の
「帰りましょうか…」
という声に救われ、俺達は一斉に頷いた。何故こんな事になったんだ、下らねぇ。
荷物をまとめ始める鬼嶋や風間をちらと横目で見つつ俺はもう少し残るかと考えていた時、黒井に早く帰って寝ろと釘を刺される。お前はエスパーなのか。
帰る気は無かったがとりあえず筆箱に鉛筆を放り込んでいれば、ふと翼と笑いながら話している南の右腕の痣が目についた。片眉を上げてそれを見詰める。打撲の様な、傷。

「…南」
「ん?何だよ、怖い顔して」
「その、右腕。どうした」
「え…あ、あぁ、これか。大したことねぇよ、不運でさ」

眉尻を下げて笑う彼に詳しい事を聞けば、どうやら強姦されかけた生徒が居たらしいとの事。後で事情を聞かなきゃな…しかし机まともに食らって大したことないワケねぇだろうが、馬鹿なのかこいつは。本当に自分の事に関しては無頓着な奴だ。
不機嫌そうな俺に困った様な顔をしながらも、南は口を開いた。
「明日んなったら保健室行くよ。心配すんな」
「…されたくなかったらそういうもんをこさえてくるんじゃねぇ」
「ん、悪い」
何故だか嬉しそうにふわりと笑う彼から気まずくなって目線を外す。と、ニヤニヤしてる風間が目に入ってきて腹が立ったので無言でクッションを投げ付けてやった。顔面クリーンヒット。
「何スか、見てただけでしょー美しい友情だなァって、ね?」
「うぜぇさっさと出てけ芋頭」
「酷いな〜…ま、良いけどね。そんじゃあお邪魔しましたァ」
ケラケラ笑いながら風間は手を振って出ていった。しまった、礼を言うのを忘れた。いやしかし南が買ってきたシュークリームを勝手に食っていったので、アレを礼代わりとして良いだろう。
一人頷いていたところ続いて扉に手を掛け退室しようとしていた鬼嶋に気が付き、背中に声を掛ける。こいつは俺の中でそこまで印象は悪くない。部屋の壁は凹ませてくれやがったが、ずっと静かだったからな。
「鬼嶋、助かった。サンキュ」
「………、…別に」
奴は一度ちらりと俺を見ると、小さな声でそう言ってそのままスタスタと帰って行った。どうやら中身はそこまで悪い奴な訳じゃあねぇらしい、面は怖いが。
そんな事を考えていれば、紫雲が大きな伸びをしながら立ち上がった。
「さて…僕も帰ろうかな。恭夜、ぼーっとしてないで早く支度してよ」
「あ?あぁいや、俺はもう少しだけここに…」
残る、と言い掛けた瞬間鋭い視線が突き刺さった。二ヶ所から。案の定というか何と言うか、黒井と南だ。…何なんだ、お前等は保護者かっつーの。そんな目で見られても最終チェックをやってしまいたい書類が何枚かある為、まだ帰る訳にはいかない。
顔をひきつらせながらも20分程度で終わると付け加えれば二人は渋い顔ではあるが仕方がないなとか何とか言いながら頷いた。…本当に何なんだ、お前等は。
それなら自分も残ると言う翼をさっさと追い出し、皆を廊下に出す。大したものは残ってねぇから、こいつらまで居残る必要は無い。
「無理はするな」
「あぁ、分かってる。…サンキュ」
扉の隙間から黒井にそう言えば、彼は微かに笑った。それを見て少しだけ驚く、…こいつも笑うんだな…まあ人間なんだから当たり前か。でも初めて見た。
本当に早く帰って休めよと最後に南に念を押されたのを適当に返事し、お疲れさんのやり取りをした後で俺はゆっくり扉を閉めた。
パタン、と静かな音が響いた後、残るのは無音。先程の騒音と比べてしまえば静かすぎる気がしないでもないが、それでも、悪い気はしなかった。
一人小さく息をつくと、よし、と頷いて鬼嶋が横に纏めていた書類を手にとる。意外にも几帳面なのか、きっちりと番号順に並んでいるそれに今日は早く眠れそうだと少々気分良くチェックを始めた。
悪い事続きの最近だったが、今日はそうでもなかった。リコールの危機を感じたり風間という要注意人物に出会ったりもしてしまったが(黒井とのアレは記憶から抹消する事にした)、何だか結構気分が良い。やはり仕事を分担する事は大切だと一人うんうん頷いていた俺は、まだ知らなかった。





それから、数分後。
思わぬ来訪者が、生徒会室に現れる事を。





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