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「喧嘩をするなと言っただろう。これ以上ふざけるつもりなら屋上から逆さ吊りにするぞ」


至極冷静な顔のまま冷ややかにそう言い放つ黒井に何しやがると怒鳴ろうとしたが、全身全霊の忍耐力を駆使して何とか口をつぐむ事に成功した。埒があかない。
そんな俺から視線を外すと、黒井は目をぱちくりとさせている二人の不良に向き直った。そこに座れと合図すれば、少しの間の後に渋々といった様子でいつもは会計と書記が座っている椅子にガタンと腰掛ける。
……すげぇな、こいつらが言うこと聞くなんざ。黒井の認識を改める事にする。
そんな奴は喧嘩を中断されて不機嫌な様子の風間と鬼嶋に、淡々とした口調で指示を出し始めた。

「風間、お前はその紙の山から一週間以内に提出期限が迫っているものを優先的に選んでやれ。鬼嶋はそこに散乱しているプリントをそこのファイルにまとめて、赤いペンでマークのあるものは横に置いておけ」
「……は?…ちょ、待て黒井!」

言っている内容に驚いて本日二度目のストップ。鬱陶しそうな顔をされたが黙らねぇぞ畜生が。これは流石に不味い、そう思いながら口を開いた。
「…これは俺達の仕事だ、手伝ってくれんのは有り難ぇが、お前等にやらせるワケには――」
「さっき自分の力量も分からないのかと尋ねた筈だが?俺はお前の為にやっている訳じゃない、学園の為だ。何かを言う前にその仕事でもやっていろ」
俺の言葉は一蹴であしらわれた。先程投げ付けられた書類をビシッと指差され、最早何も言えなくなる。くそ、何で俺がこんな奴に命令されなきゃならねぇんだ…!しかしなまじ相手の言うことは的を得ている為何も言い返す事が出来ない。学園の事を本当に考えるなら、黒井でも風間でも鬼嶋でもネコでも、兎に角助けが必要だった。
そんな俺の様子を見ながら喉の奥でクツクツ笑う風間にイラッとして鋭い視線を飛ばせば、肩を竦めて言った。

「安心しろよ、会長サン。俺は頭そこまで悪かねーから、力になれると思うぜェ?」
「……、…それをしてお前等に何のメリットがある」
「メリット?んなもんねぇけど、まあ俺的にはアンタに恩が売れれば気分が良いね」

ケラケラ笑いながらも作業を始めた風間に何も言うこと無く眉間に皺を寄せるだけに留めた。隣の鬼嶋はさっさとファイルを取り出し黙々と片付けている。……この二人がデスクワーク。異様な光景だ。
しかし関係の無い奴等が一生懸命仕事をしていて会長である俺がサボってるなんて冗談じゃない。いや、他の役員は今まさにその状態だけどな。
軽く息を吐き、再び腰を下ろして書類に目を通し始める。と、目の前に詰まれていた紙の山が不意にひょいっと視界から消え、反射的に顔を上げて――俺は、思わずぽかんとした。あの紫雲が、そこには立っていたから。
「…何、してんだ、お前」
「しょうがないから、手伝ってあげるよ。恭夜が会長なのは気に食わないけど、君がトップじゃない学園にも興味はないんだ」
山を軽々と持ち上げながら俺にだけ聞こえる小声でそう言ってニッコリと笑う紫雲に一度目を瞬かせた後、俺は小さく笑った。サンキュ、と軽く言えば「気持ち悪いから止めてよね」なんて言葉が返ってくる。どういう事だ、失礼だなこの野郎。


真剣に仕事と向き合っている彼らの姿を見て、俺は久しぶりに気分が安らいでいく様な気がした。若干腹の立つ奴は居るには居るが、仕事をしている間はすこぶる大人しい。うん、実に快適な空間だ。
黒井の考えている事はよく分からねぇが、状況が状況だ。ここは素直に甘えておこうと思う。




程よい緊張感のある中、鉛筆を動かす音を聞きながら俺は机に向き直った。





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