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思ったよりも低い声が出たなとどこか人事の様に考えながら、翼が驚いた様にこちらに顔を向けてくるのを横目で捉えつつ、俺は目を細めて風間を睨んだ。相手は一瞬ニヤニヤしたいやらしい笑みを消して俺に視線を向けたが、すぐにまた口端を上げる。何とも胡散臭い笑い方だ。
「なんだ、会長サンじゃないスか。意外だなァ、アンタがヒヨコちゃんの事庇うなんて。あ、わんこだっけ」
「ハッ、鳥だか犬だか知らねぇが翼は俺が選んだ補佐だ。侮辱すんのは許さねぇ」
そう、翼を侮辱する事はすなわち俺自身が侮辱されている事と同じだ。黙っている訳にはいかなかった。相手を見据えながらそう吐き出せば、奴は口端を舐めて目を光らせる。…不愉快な瞳だ。何か翼がオロオロしてるが今は無視。
そのまま二人で睨み合って何分か経過…する前に、冷静な黒井の声が部屋に響いた。


「何を喧嘩している。そんな暇など無いだろう、状況を理解しろ馬鹿共」


………。…俺に向かって馬鹿とは言うじゃねぇか、言っておくが俺は根に持つタイプだぜ。と軽くムカッとしたが確かに、黒井の言う通りだ。遊んでる暇はねぇな。
軽く溜め息をついてから風間から目線を外し翼に向かってやるぞ、と声を掛ければ、ハッと気が付いて慌てて頷く。
それを見てつまらなさそうに口を尖らせた風間は両手を頭の後ろで組み、それで、と言葉を発した。
「黒井サーン、何で俺等呼ばれたんスかねェ。俺、このシルバー君と一緒の空間に居るの嫌なんスけどォ」
「…あぁ?そりゃこっちの台詞だクソが、胸糞悪ィ。テメェみたいなのが息吸ってんじゃねぇよ」
「ハハッ、何それギャグ?遠回しに死ねって言ってんの?ほんと頭悪いなァー遥ちゃんは、」



ドガァッ!!!



「「「……………」」」
うるせぇなと苛々しながら自分の椅子に腰を下ろした瞬間鈍い音が響き、少し部屋が揺れた、様な気がした。何だ、突発性の地震か。そんな事を思いながら顔を上げて見えた光景に、思わず唖然。
――鬼嶋が、風間の顔面ギリギリの壁に、拳をめり込ませていた。ヒビの入ったそれから、微かに粉々になったコンクリートが落ちていくのが見える。
………は、はあああああ?
固まる俺達にも構わず、睨み合う鬼嶋と風間が何時ものように二人の世界へと突入している声が聞こえた。

「…テメェ…何度言ったら分かんだ、この単細胞野郎が…名前で呼んでんじゃあねぇよ…!!」
「単細胞?お前にそんな事言われちゃお仕舞いだなァ、分かってて呼んでるに決まってんじゃん?」
「……っテメェッ」

「―――いい加減にしろよこの糞餓鬼共が…ッ!!!」


今座ったばかりだと言うのに、俺はバァンッと思いっきり両手で机を叩き立ち上がった。翼が思いっきりビクッとしてこちらを見てくる。当の本人達は訝しげに視線を寄越すが、は?何だその顔?何怒ってんだみたいな表情してんじゃねぇよカスが。俺の部屋に何してくれてやがんだこいつ等は?殺す。絶対殺す。ブチ殺す。
心の中で呟いたつもりだった言葉はどうやら口に出ていたらしい。君の部屋じゃないだろ、なんていう紫雲の声が聞こえたが無視。思いっきり殺意を込めて二人の不良を睨み付けてやれば、驚いた様に掴みあっていた手を同時に離した。
拳を握って阿呆共に向かって怒鳴り付けようと口を開いた、その瞬間。

スパーンッ

「いッ、」
「かっ…会長―――!!!???」
顔面に何かが叩き付けられ、次いで翼の仰天した様な裏返った声が部屋に響いた。………うるせぇ馬鹿。
投げ付けられたのは、分厚ーい書類の束。投げ付けたのは、…アイツに、決まっている。






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