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(恭夜side)



仕事を始めると言った黒井に俺と翼は数秒間固まった。…誰かこいつの考えてる事を俺に翻訳しろ。何、何なんだ本当。
そんなぽかんとしている俺達にも構わず、鉛筆とボールペンと消しゴムをよこせという奴に呆け気味ながらも翼に合図すれば、慌てて一式用意してきた。それを受け取ってそのまま書類と向き合おうとする黒井に、俺はハッと気が付いて慌てて待ったをかける。
「ちょ…、ちょっと待て黒井!おま、何してんだ!?これはうちの仕事、」
「だからなんだ。―――…手伝ってやると、言っている」


………何だって?


後ろでボソリと、明日は地球に彗星が突っ込んでくる、なんて小さな声が聞こえた。
失礼な奴だな翼……激しく同感だぜ。
既に何やら手をつけ出し始めた黒井に、これ以上話しかける雰囲気じゃあないって事は分かる。いや、でも、ちょっと説明しやがれこの野郎。
どうすればいいのか分からない状況に立ち尽くしながら、思わず心の中で悪態をつけた時だった。


ガチャ


「ちぃっス、三河屋ですー」
「うぜー普通に入れこのカス」

………。………今度は、何だ。急な来訪者にげんなりする、まず入る時はノックするのが常識だろうがくそが。
そんな思いも込めて睨み付ける様に扉の方を見やれば、想定外の二人の人間が居て目を見張った。翼のゲ、と呻く様な声が聞こえる。
片や派手な紫の髪にピアスだらけの耳、片やギョッとする程の銀髪に捲りあげた袖の隙間から見える龍の刺青。
およそ生徒会室には不釣り合いの二人の人間は、一人は口元に笑みを浮かべ、一人は不機嫌そうに眉間に皺を刻みながら、そこに立っていた。



(――2年の、犬猿コンビ…)



悪名高い問題児二人。
中等部2年に上がった頃、最強に喧嘩が強く最強に仲の悪い二人組がいるという噂がいたる所で囁かれた。その奇抜な容姿で颯爽と歩く彼らはとてもじゃないが中坊には見えなかった事を覚えている。

1年F組、風間裕介。
同じく1年F組、鬼嶋遥。

手に負えない二人の不良は顔を突き合わせる度に昼夜場所を問わず喧嘩をおっ始める事で有名だった。互いの何が気に食わないのか知らないが、それはもう親の仇の様に仲が悪い。始めは喧嘩する程仲が良いみたいな事だろ、と思っていたが奴等の喧嘩を見て、その考えは直ぐに改まった。まるで戦争の様な、凄まじい争いだった。
仲が悪いなら一緒に居なきゃいいのに、一方が現れる場所には何故か必ずもう一方も現れる。逆に気持ちが悪い。


そんな二人が何故、ここに。そう考える前に黒井が扉の方に目をやり、さっさと入れと指示を出したのを見て納得する。そう言えばこの二人は風紀委員だった。彼らが一番風紀を乱してる様な気もしないでもねぇが。
問題児は自分の監視下に置いた方が良いと判断し、黒井が強制的に入れたらしいとの噂を聞いた事がある。
…それにしてもどんな手を使ったんだ。


遠慮なく中へと入ってきた二人は対照的な反応を見せた。紫の髪の風間裕介は興味深そうに部屋を見渡し、銀髪の鬼嶋遥はつまらなさそうに一度ちらりと黒井に目をやってからその場で足を止める。と、風間が何やら不愉快そうな顔をしている翼に視線を定めたと思えば、ニィと口端を上げて笑った。

「何だ、ヒヨコちゃんじゃん。生徒会のわんこやってるのって、本当だったんだなァ?」
「…っせぇな、お前には関係ねぇだろ。何でここにいるんだ」

チッと舌打ちをして風間を睨み付ける翼はまさに不良の鑑だ。久しぶりに見たな、こいつのヤンキーモード。しかしヒヨコってのは何なんだ、あだ名か?
邪険に扱われたと言うのに風間はまた笑い(マゾか)、翼の質問は無視してぺらぺらと喋りだした。
「冷てーなァ、その態度。どーきゅーせーだろ?優しくしてくれよ、ヒヨコちゃん」
「同級生だから何だ、殆ど接点ねぇだろ。それとヒヨコって呼ぶな」
「ハハッ細かいトコ気にすんなよ!それともわんこのが良いワケ?中々の忠犬っぷりらしーじゃん」
「っ、んだと…ッ」





「―――てめぇなんぞにゴタゴタ言われる筋合いはねぇんだよ虫けらが。うちの補佐にちょっかいを掛けるんじゃねぇ」





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