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気が付いたら口からそんな言葉が出てきていた。少し驚いた様な天瀬先輩の顔が目に映る。
いつもなら、黒井先輩に楯突く様な真似なんか絶対にしない。風紀委員長に俺みたいな凡人が何か言っても全くの無駄だから。
それでも、今の発言は聞き捨てならなかった。正直怖いが、そんな心は隠して俺は黒井先輩を真正面から睨み付ける。
「…会長は、悪くないんじゃねぇっスか。勝手に仕事を放棄したのは他の役員だし、会長には説得してあの人らを連れ戻す様な時間なんかなかったんだ。会長を責めるのはお門違いでしょう」
「翼、止めろ!」
「止めないですよ、俺は納得出来ない。…こんなの、理不尽すぎる…!」
「――子供の考え方だな」
「!っな…ッ」
顔色一つ変えずそう言い放った相手に思わずカッとなったが、会長の「翼!」という鋭い叱咤に動きを止める。らしくもなく舌打ちが出た。しまった、クセで。
黒井先輩は冷たい目で俺を見てくる。
きっと彼は、俺なんかに向かって話すつもりじゃない。相手の口が開くのを見ながら、そう思った。

「実際の話がどうであれ、端から見ればただ生徒会そのものが機能していない様にしか見えん。そしてそれは、生徒会役員――そのトップである生徒会長の責任だ。そんな事も分からずによく補佐などやっていられるな」
「…ッ」
「お前がどう思おうが俺は興味が無い。……俺には、この状況を何とかする義務がある。風紀委員長としてな」

(…それは、)
リコールするという、死刑宣告の様にも、聞こえた。
携帯を取り出し何処かに電話をし始めた黒井先輩に絶望感を覚える。何も言わずソファに座る会長を見やれば、唇を噛み締めていた。
きっと会長、いや恭夜先輩は、生徒会長という椅子が欲しい訳じゃあないんだろう。ただ、悔しいだけなんだと思う。ランキングで選ばれただけと言えばそれまでだけど、恭夜先輩には誇りがあった筈だった。
やり始めた事をやり遂げられない事が、どれ程の苦痛になるかなんて俺には分からない。そこまで懸けたモノが俺にはない。それでも先輩の今まで見たことの無い顔を見れば、推測する事は出来た。
………しかし。

「…天瀬先輩、何で嬉しそうなんスか…」
「ん?だって僕は最初から恭夜が会長になるなんて反対だったもの。目立てば目立つ程敵が増えるんだからさ」

紅茶を飲みながらそうにこやかに言う天瀬先輩。…敵って何だ。
しかし本人を前にしてそんな事を堂々と言える天瀬先輩は正直すげぇなと思う。会長は少々不機嫌な様子になったが何も言わない。多分もう諦めてるんだろうな…。
と、黒井先輩が電話をし終えたのかこちらに向き直り、スタスタと歩いてきて会長の横のソファに断り無く座った。まだ居座るんスか。


「おい、始めるぞ」
「………、………何をだよ」


机に乗った書類をズラしてスペースを作りながら何かをする気らしい黒井先輩に、会長が間を空けて訝しげに聞いた。俺も頭の上にハテナマークだ。撤退作業?風紀委員長は気が早すぎるんじゃないか。
そんな俺達に少々呆れ気味の視線をよこして、黒井先輩は当たり前、といった口調で言った。





「仕事に決まっているだろう」




間。





「「……………は?」」


どういう事。




(翼side/end)




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