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(翼side)




会長が風紀委員長である黒井先輩に担がれて部屋に入ってきた時、俺はそりゃもう尋常じゃない位驚いた。驚いたってもんじゃない、明日は雪と雹と霙が同時に落ちてくるに違いないと確信した。何故なら、二人は物凄く仲が悪い事で、有名だったから。


ソファに放り投げられた会長にまたまた仰天して思わず声を掛ける。あんなぞんざいな扱いをされてる会長初めて見た、貴重だ。いやそんな事考えてる場合じゃない。

今、生徒会室には会長と黒井先輩に俺、それと会長の親衛隊隊長である天瀬紫雲先輩がいる。
天瀬先輩は中性的な顔立ちの美人で、タチからは勿論ネコからも人気のある人だ。
でも俺は正直怖い。物凄く、怖い。副会長が腹黒だとか言われてるけどその比じゃない、何て言ったって黒帯の持ち主だから。前に一回背負い投げを食らってから逆らわない様にしてる。
兎に角その、超怖い天瀬先輩の纏うオーラがヤバいのだ。笑顔は素敵なのに悪魔が見える。何でこんな怒ってるかって、そりゃさっきのお二方の登場のせいだろう。会長は敢えての完全無視を決め込んだみたいだが俺はこのオーラを無きモノとして扱う事が出来ない。精気を吸いとられてる気分。

それでも何とか会長と黒井先輩の話に耳を傾けていると、どうやら今俺達は相当不味い状況に陥っているらしい事が分かった。
風紀委員は生徒会に比べればその権力は少々劣るものの、かなりの発言力を持っている。彼らにリコールを叫ばれれば打撃を受ける事は必然だった。
いや、他の役員はどうでもいいけど会長は会長であって欲しい。もうこの呼び方で慣れちまったし。それだけの理由じゃないけど。
ハラハラしながら二人のやり取りを見ていると、黙り込んでいた会長が息を吐いた。視線を黒井先輩に移すと、口を開く。



「……役員は、…来ねぇよ」



――苦しそうな、声だった。
眉間に皺を寄せながら話し出す会長を見て、もしかしたらこの人は責任を感じているのかと考えた。でも単純な俺はこの状態を、会長のせいだとは思えない。っつーか一番頑張ってんのは会長なんだから、責められる謂れは無いだろ。
俺はそう思ったが、話を聞き終えた黒井先輩は違ったらしい。一回溜め息をつくと、会長を冷ややかな視線で捉えた。

「それで、お前は役員を無視して補佐と二人で仕事をしている訳か。この量を」
「………」
「自分の力量も図れないのか?私事を仕事に巻き込むな、この部屋に溜まり滞っている事項が何個あると思っている」
「……ッ悪、ィ」



拳を握りしめながら謝る事が大嫌いなプライドの高い彼がそう告げた瞬間、俺の中で何かがプツリと切れたような音が聞こえた。
何で。何で、謝るんスか。
心の中での叫びはそこだけでは到底治まりきらなかった。
だって、…だって、こんなの。



あんまりだ。




「――…ちょっと、待って下さいよ」






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