10







相手の言葉に眉を顰める。何が言いたいんだ、こいつは。はっきりとしろ、畜生。
黒井はジッと俺から目を逸らさず、ただ見詰めてくる。……徐々に、距離が近付いてる気がすんのは、俺の気のせいか?
不意に顎の形をなぞる様に指を這わせられ、らしくもなく体が跳ねた。止めろと顔を背けようとしたが、そのまま固定される。
声が出ねぇ、ヤバい。
そう思った瞬間、だった。



「―――……ッ」



眼前に黒井の顔。唇に柔らかい感触。
…ここは何処だったか、あーそうだ風紀委員室だ。書類を届けに来て、それで―――何で俺は、こいつに、キスされてんだ?
「!……ッンン、ふ……っ」
余りの事に頭がついていかず無意識に現実逃避をしかけ油断した時、舌が口内に侵入してきた。歯列の裏をなぞられ、背中に小さな痺れが走る。何度も何度も角度を変えられ、抵抗する様な力も残っちゃいない。貪る様なキスに足腰がガクガクして上手く息が出来なくなり、やっと解放された瞬間、俺はずり落ちる様にしゃがみこんでしまった。
「…っは、げほっ、はァ…ッ…」
苦しかった。口元を拭いながら、何とか空気を吸い込む。キスなんざ何回もした事はあるが、あんな濃厚なものは初めてだ。しかも受け身。しかも相手は黒井。最悪の一言に尽きる。
息も絶え絶えの状態だが何とか相手を睨み付けてやると、口端を少し上げ、膝をついて俺を覗き込んだ。余裕な態度が更に俺を苛つかせる。
漸く整ってきた呼吸に、体を捩る様にして相手から離れようとすれば再び腕を掴まれる。触るな、そう怒鳴ろうとした矢先、思わぬ言葉を掛けられた。


「送ってやる」
「………、………はァ?」


思わず間抜けな声が出た。送る?何処に?何故。
展開について行けなさすぎて正に目が点状態だ。とりあえず真面目一直線だと思っていた黒井のイメージが今日一日でガラリと変わったのは確かだな、うん。
そんな事を考えながら未だ呆けていた俺は、黒井の手が膝下まで伸びてきていた事に気が付かなかった。
「っ、な…ッ!?」
不意にグイッと無理矢理引っ張られた感覚に驚く間に、俺は奴に抱え上げられていた。状況を理解した瞬間、身体中に流れる血が一気に顔に集中した様な気になる。それは勿論、羞恥を超えた怒りの為だった。
この俺が、こ・の・俺!が!!こんな眼鏡に軽々と抱き上げられてるなんて人生最大の汚点だ!なんだこいつの涼しそうな顔!?重そうな顔をしろ、笑ってやるから!
しかも樽を肩に担いでるみたいなこのポーズ。おんぶとかあるだろう、せめて!!!
さっきのキスなんか霞むくらいにショックだった。一週間位は引きこもりそうな勢いだ、いやむしろ屈辱すぎて死にてぇ。
何も言わずスタスタと歩き始めた黒井の肩の上で、俺は精一杯暴れながら怒鳴り散らした。

「っ下ろせこのッ、ふざけんな!俺を誰だと…ッ」
「…煩い。生徒会長の御堂島恭夜だろう、知っている。だからどうした」
「な…ッ、チッ、テメェ一体何がしてぇんだよ!」
「生徒会室に行くんだ」
「は、はぁっ!?」

予想外の言葉に唖然とした。さっきの送るって、そういう事か。なんて納得してる場合じゃあない。
これは不味い、今の生徒会室の状態を見られるのは非常に宜しくない。宜しくないどころの騒ぎじゃねぇ。
生徒会役員はいないわ散らかしっぱなしだわ溜まりに溜まった書類の山があるだわで最早異界と化してんだ。そんな所をこんな奴に見られたら、下手したら全員リコールされてしまう。
いや、あいつ等は寧ろリコールされて欲しいが俺を巻き込むな!




- 10 -


[*前] | [次#]


しおりを挟む

>>>目次

ページ:




【アマギフ3万円】
BLコンテスト作品募集中!
- ナノ -