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宮村も無事に見つかり、恭夜から心配をかけるなとひとしきりの説教が投げ付けられてからものの数分後。大荷物を抱えた買い出し組が丁度、ぶちぶちと文句を言いながらも帰ってきた。
余り濡れていないのは恐らく、南の強力な晴れ男っぷりによるものだろう。出ていってから直ぐに小降りになってな、と笑う南や立花等が机に置いた材料に、早速皆は手分けして晩御飯を作る事にした。


勿論、学校では腕の確かなシェフ達の美味しいご飯を食べているお坊っちゃま達の集まりである。数人は全くもって役に立たない為に後片付けに回される事にったのは必然であるが、書記の篠山や翼は料理が大層上手い。
どうやらちゃんとした飯が食べられそうだと、皆の働きっぷりを腕組みしながら見ていた恭夜はウンウンと頷きながら考えた。…そうふんぞり返っている彼は全くもって役に立たないうちの一人であるのだが、翼の計らいにより「総監督」という名ばかりのサボりポジションにつくことになった為に、本人は体よく追い出された事には気が付いていない。


「あれ、会長。会長も傍観組?」
「あ?……あぁ、前田か」


と、そんな彼に声がかかり、そちらを見てみると前田がのそのそと歩いてくるところであった。
聞くところによれば彼はサラダを作る係だったのだが双子の独創的な芸術作品(サラダ)に手を出す事が許されず、終いには「ちょっと君邪魔だからどっか行ってて!」と追い出されたらしい。何処に行っても哀れな奴だな、と恭夜は少々不憫に思った。思うだけであるが。

それから二人でしばらく他愛のない話――殆どが前田の俺の嫁可愛いというオタク話だったが――をしつつ、ふと恭夜はそう言えば、と口を開いた。


「前田は、真壁とは長い付き合いなのか」
「…ん?壁っち?ウーン、中2から部活は一緒だけどそこまで仲良いっつ訳じゃないかな?壁っちどっかしらに壁あるから、壁っちなだけに!なんちって!」
「そうか…真壁ってどんな奴なんだ?」
「俺の渾身のギャグが超スルー」


真顔で彼の話を流した恭夜にどいつもこいつも冷たいよなちくしょう、とぶつぶつ文句を言いつつも、前田はそうだなあと宙に視線をさ迷わせながら口を開いた。

「とりあえず…腐男子ってのはあるけど、俺が他に知ってる腐男子仲間とはちょっと違うかなあ。男同士がなんやかんやしてる事自体が好きっつーより、なんつーか…壁っち自身は前に『価値観が好き』とかなんとか言ってたけど」
「価値観?…どういう事だ」
「んー、だからさ、人の行動ってそれぞれの価値観があるから違ってくるじゃん?それ見るのが好きなんだって。だから色んな本読むし色んな映画見るし、色んな人間観察してんの。そん中でも男同士の恋愛は面白いみたいよ?」

俺には理解出来ないけどねー、と言いながら肩を竦める前田に、恭夜は成る程なと呟くように言った。従姉の美樹と反応がどこかしら違うと感じたのは、やはり根本的なところで目的が違ったからなのだろう。
確かに、真壁が求めていたものは恭夜がどう動いていたか、そして周りがどう反応していったかという話であった。自分は関わらない様に、周りで何もせずに傍観するのが彼のスタイルなのだろう。
どちらにしたって恭夜にとって迷惑である事に変わりはないのであるが。

迷惑であるし、どんな展開を求められても困る。それだけは確かだ。
確か、だが――……。

あの言葉――『無知は罪だ』という彼が言った――の真意が分からず、ふとした瞬間頭にそれが蘇るのである。
大して自分の事を知らない人間、そんな真壁の言葉など余り気にしなくても良いのかもしれない。だが、何故か考えなければいけない事なのではないかと、恭夜はそう思えて仕方がなかった。
誰かをまた傷付ける可能性があり、ましてやそれが他人から見て分かっている状態なら。もうあんな思いをするのも、させるのもご免なのだ。気を付けられるものなら気を付けたい。
しかしそうは言っても何にどう気を付ければ良いのかなどてんで見当もつかない現在である。どうしろと、と溜め息をつきながら頭を捻る恭夜を横目に、口を小さく尖らせ――前田がでも、とぽつり呟いた。それに反応し緩く顔をそちらに向ける恭夜に、前田はにっ、と笑う。これで中身がまともならばそりゃあモテただろうに、と恭夜が少々残念に思う、悪戯っ子のような無邪気な笑顔。


「壁っち自分勝手な事沢山言うけどさ、悪い奴じゃないし、別に自分の考えてる通りに会長に動いて欲しいと思ってる訳じゃねーと思うよ?ホラ、先の見えてる話なんてつまんねーじゃん」
「…ま、悪い奴じゃないとは思うけどな。意味深な言葉が引っかかってるだけだ」
「あー、よく言うんだよなああいうの。でも結構大事かも、端から見てる分俺等が気付かねー事によく気が付くし?あ、後」

思い出した様に付け足す前田に何だ、と恭夜が短く返せば、彼はにっかりと笑いながら、頭の後ろで腕を組みつつ、言った。



「壁っちハッピーエンド好きだから、つい口出しちゃうのかもな!」
「………」



思わぬ言葉に一瞬呆けた顔をした後、恭夜は眉尻を下げて―――そりゃ俺の責任は重大って事かよ、と笑った。




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