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「…かくれんぼだぁ?」


満面の笑み、目の前ではっきり大きく頷く立花。
この年にもなって、と思わず呆れた目線で彼を見やったが、言い出したら止まらない立花には何を言っても無駄だろうと、俺はそれ以上反論する事なく小さく溜め息をつくに留めた。


真壁との二者面談の様な会話(前田は空気)を扉を叩く音で遮ったのは紫雲だった。何やら全員ラウンジに集まるよう連絡が回ったらしく、何かあるのかとのそのそついていけばそこには他の奴等と、一際目立つ仁王立ちで嬉々とした顔の立花の姿。
その時点で嫌な予感がした為に触らぬ神にゃあ祟りなし、と華麗に奴をスルーしようとした俺。が、その前に立花は開口一番、「かくれんぼしようぜ!」と笑顔のままに言い放っていた。
そこから、冒頭の俺の台詞へと続く訳である。

まぁそりゃあせっかく来たのに外は雨な訳で、出掛けられないのなら中で何かしようと思うのは良い。けど何でかくれんぼだ。何歳児なんだお前は。
周りが皆乗り気なのも納得いかねぇ。アレか、旅のテンションか。旅のテンションがお前等を掻き立てるんだな、迷惑な話だ。
なんて事を思ってる俺の事は他所に。


「あっ、そうそう普通にやっても面白くないから罰ゲームつけようぜ!見付かった奴等はランダムで罰ゲーム、逆に全員見付けられなかったら鬼が罰ゲームで!」
「良いね〜じゃあ罰ゲーム何にする?ポッキーゲーム?尻文字?それともディープキスとか〜?」
「!?はっ、破廉恥ですよ!!」


立花の提案にニコニコと乗る篠山。何でそうお前の罰ゲーム内容は際どいもんが多いんだ、ディープキスって。男しかいねぇだろ、むさいむさい洒落にならねぇ。
翼が顔真っ赤で却下しているのを横目に何も言わずに眺めていれば、話は勝手にあれやこれやと進んでしまっていた。……もう本当、勝手にしてくれ。


「よし、分かった罰ゲームは夕飯の買い出しに決定な!後は鬼決め、あ、俺は鬼が良い!原田センパイ一緒に鬼やろうぜ!」
「…何で俺がてめーなんぞの子守りをしなきゃなんねぇんだ」


はいはいはいと元気よく手をぶんぶん振りまくる立花が絡んだのは、しかめっ面の原田だった。何であの二人が、と目を白黒させていれば、どうやら部屋が一緒だったらしい。今回組み合わせがすげぇな。
既にげんなりした顔つきの原田に大丈夫なのかと少し考えていたら、隣に立っていた前田が俺の考えを察したのかケラケラ笑いながら、言った。

「かいちょー、んな心配しねーでも大丈夫だよ。一輝確かに他人に冷てぇとこあるけど、あぁ見えて結構世話焼きだし。立花馬鹿っ子だけどなーんか憎めないから、すぐ慣れると思うよ」
「…そうか。ま、お前に付き合ってる訳だしな」
「ちょちょちょどういう意味スか」

俺が馬鹿っ子って事!?と愕然とする前田に喉で笑いつつ、何故か鬼決めに巻き込まれていた南を見守る。その後なんやかんやと揉めたようだが結局、鬼は立花と原田、南と長谷川に決まった様だった。
探すの下手なんだよなあ、とぼやく南にご愁傷さん、と声を掛ければ、恨めしげな目線で見られた。同じく原田にドンマイと言った前田は殴られていたが。流石に可哀想になってきたな、アイツ。



「じゃあ5分後に探し始めるから、皆隠れてな!!部屋の鍵閉めたらダメだぞ!」
「「「は〜い!」」」



双子と篠山の元気の良い返事を合図にして、皆それぞれわらわらと勝手に散り出した。風間なんかは全くやる気無さげに欠伸していたが。東條も宮村に付きっきりで当の本人めちゃめちゃ苦笑いなんだが。
仕方がないから、面倒だが俺も移動を始める。こんな雨の中、買い出しになんて行きたくねぇからな。
立花の数を数える声を背中に受けながら、俺は良い隠れ場所を探しに歩き出した。






―――そして、今。
始まって4分後、未だに廊下に突っ立っているままの状態な俺である。
ここまで来る途中に柱の陰に立ちながらも全く隠れられていない鬼嶋やらよく分からん彫像の後ろで座っていた篠山やらぬいぐるみに埋もれているつもりの頭隠して尻隠さずみたいな翼やらを見かけたが、あの分ならすぐに見付かってしまいそうだ。
もっと良いところは無いかと探していたらまぁ、もうこんな時間な訳で。


少々焦りつつとりあえずどっかの部屋に入ろうと、俺は近くにあった扉を何となしに開けてみた。
途端、大きなグランドピアノが目に飛び込んできて、少しだけぎょっとしてしまったんだが。

遠慮がちに部屋の中へとそろそろ入り込む。
グランドピアノ以外にもチェロや木琴鉄琴、ギターにベースなど様々な楽器が置いてある部屋だった。一ペンションのくせにこの充実具合は何なんだ。学校の音楽室並みに揃っている。
柄にもなく感心しながらそれらを見ていれば、ふと部屋の奥の壁に分かりにくいがドアノブの様なものがついているのが、目に映った。

隠れられるかと思いつつ近付いて、がちゃりと開いてみれば。



「…………」
「…何だ御堂島か。ここは満員だぞ」



先客がいた。
数学の教科書を手にそこに詰まっていたのは、黒井だった。
クローゼットには他に衣装の様なものや楽譜が置かれていて、その中に座る彼は酷く異様だ。一人なら余裕があるが二人は狭い、そんな感じの空間。せっかく隠れられると思ったのに、なんて運が悪いんだ俺。

「…こんな時くらい教科書見るの止めろよお前。っつーかドア閉めたら真っ暗で見えねぇだろ」
「そうだな、それが誤算だ」

くそ真面目な顔で頷く黒井。少し考えたら分かるだろ、って言うか本当に勉強してんだな…俺も頑張らねぇと。
なんて奴の勉強に対する思いに触発されよく分からん決意を固めていた、その時。遠くの方で、声が聞こえた。

ぎょっとして時計を見やる。かくれんぼが始まってから時間は既に、9分が過ぎようとしていた。
不味い不味い見付かる、買い出しは嫌だ。めんどい。でも隠れられる場所が無い。

―――かくなる上は。



「ちょ、入れろ!縮め黒井!」
「無茶を言うな、無理だ」
「無理じゃねぇ、人間成せば成るんだよ!」



黒井の入ったクローゼットに、無理やり押し入った。狭い。狭いどころの騒ぎじゃない。
それでもぎゃあぎゃあ騒ぎつつ、黒井が諦めて体の方向を何とか変えてようやく、若干無理やりだが扉を閉める事に成功した。途端、廊下から矢張立花らしき声が聞こえてきて、間一髪だったと溜め息をつく。

………が。




(………ちっか、)




――黒井との距離が。
俺が無理やり入ったんだから文句は言えねぇんだが、それにしても近い。油断したらすぐに二人共扉から転げ落ちてしまいそうなバランスを、黒井がさりげなく俺の肩を引き寄せて落ちない様にしているのが不満だ。いや、何が不満なのか分からないんだが。
と言うか、すぐ横に奴の顔がある様な気がする。暗くて見えない。何も見えない。だが恐らく鼻先に肩が当たっている…様な感じがするから、多分直ぐそこだ。
そう思ってる間にも声は段々と近付いてくる。頼むからこの部屋には入ってくるなよと願いつつも俺の意識は、目の前の男に向かっていた。

気まずい。

とりあえずこの、言いたかないが妙に抱き締められてる様な状態が嫌で少しだけ身動ぎしようとしたら、戒める様に肩に置かれた手に力がこもった。




………気まずい。





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