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―――不良達との面倒な抗争が終わってから、二日後。鬼嶋の怪我はまだ完治には至ってていないものの、もう奴は殆ど痛くない、と言うような顔をして過ごしていた。俺なんて未だに口の中が切れたから飯を食う時痛いのに、どういう事なんだ。

それはともかくとして、夏休み三週間目である今日。以前萱嶋兄弟及びその父親と約束させられた、子守旅行なるものに来ている真っ最中の俺である。

メンバーは当初の予定より、大分多くなっていた。萱嶋兄弟はもちろん、俺と南、生徒会役員である篠山に翼と東條。
俺が誘った黒井も忙しいと言っていたが時間が取れたらしく、参加。俺の家に居候している鬼嶋も勿論参加。紫雲は何故か誘う前から知っていて行く気満々だったが。
そして案の定、双子が立花を誘った様で、当たり前の様にそれに長谷川と真壁がくっついている。宮村も松葉杖を持ちながらももう大分良いから、と笑ってバスに乗り込んでいた。心配する東條を威嚇するのは原田と前田だ。

意外だったのは、風間がいた事だった。
黒井の横でぷらぷらとつまらなさそうに携帯のストラップを揺らしている奴を見ていたら、宮村が「俺が誘ったんだけど」とへらりと笑っていたが。
あんな事もあったし、風間は大人数で騒ぐのが嫌いな性格の様に見える。まさか誘われても来るまいと思っていたが、何の心境の変化かはたまた誘ったのが宮村だったからなのか。
相変わらず鬼嶋とは距離を置いているけどな、嫌味の応酬も以前と変わらないし。変わったと言えば鬼嶋の拳骨を振るうスピードが少しだけ遅くなった位か。…ま、この二人にはそういう距離が合ってるのかも知れない。


そんな総勢17名という大人数が乗った一台のバス。それにゴトゴトと揺られながら来たバカンス地に降り立つと、まず篠山と萱嶋兄弟が、声を上げた。


「わー海だ〜」
「「山だー!」」



「「「…雨だー……」」」



楽しそうだった声とは一変、気落ちした様な彼等のハモりに、俺達も思わず苦笑いを浮かべる。せっかくはるばると来たと言うのに、外は生憎のザーザー降りだ。
本日泊まる大層豪華なペンションのラウンジにて荷物を置き始める面々の横で、双子は非常にぶすくれていた。
さっきまで晴れてたのにぃ、と頬を膨らます海翔に、東條が眉尻を下げて笑いながら「山の天気は変わりやすいですから」と答える。

「明日は晴れるかなー」
「海行きたいよーせっかく来たのに。ね、会長も入りたいよね、海」
「あ?俺は海は嫌いだ」

ぽこぽこと急な雨に対して怒る空翔達に若干呆れつつそれを横耳で聞いていれば、不意に話を振られた。ゆるりと首を動かし、正直に答える。
途端、奴等はえぇ!と信じられないものを見るかの様な視線で俺を凝視してきた。………何なんだ。海が嫌いで何が悪い。まあ海自体が嫌いと言うよりは、海水浴が嫌いなだけなんだが。色々と面倒だ。
海入るの嫌いな学生なんているの、とひそひそ話をしだす奴等に、南が笑いながら言った。

「まぁそういう奴もいるだろ。海パンに砂入るの嫌いなんだよな、恭夜は」
「あぁ、本当に不愉快だアレは。…それより。上がらない雨の心配はともかく、部屋はどうすんだよ」

そう、目下の問題事は部屋割りについてである。明日の海の事なんざどうでもいいから、このソファを埋めつかさんばかりの荷物をどうにかしたい。
双子に質問をしようと口を開きかけたが、その前に黒井が声を発した。

「萱嶋、部屋は何個あるんだ?」
「えっとねー、部屋は8個かな?あ、1つ3人部屋になっちゃうけど我慢してねー」

こんなに来ると思わなかったからーと付け足す海翔に、皆がブーイング。そりゃあ3人部屋なんて狭苦しくて嫌だろう、俺だって嫌だ。ひと悶着ありそうだな、くそ面倒くせぇ。
早速立花が誰と一緒の部屋になるか揉めている奴等に、俺は思わず溜め息をついた。
ふ、と何となく横に立っていた黒井に目を向けると、目線が合う。考えている事は、一緒の様だった。


「…決まんねぇだろうな」
「あぁ。くじ引きが良いだろう」
「そうだな。おい、くじ作んぞくじ。誰と一緒になっても文句はナシだ」
「えぇえ〜楓と一緒が良い〜」
「廊下で寝てろ」


駄々をこねる篠山らを無視して、せっせとくじ作り。初っぱなからこれじゃあ先が思いやられるな…。まあ3日なんてすぐだ、我慢しろ俺。
なんて事を思いながら作ったくじを、皆で一斉に引いた。




―――そして、その結果。


「………俺かよ………」

3人部屋。
げんなりとしながら呟いた俺に、南が苦笑いしながらドンマイ、と声をかけてきた。どうやら奴は翼と同じ部屋らしい。羨ましいな、くそ。
俺の同室者は誰だと、騒いでいる面々をぐるりと見回し同じ番号の人間を探していれば。

「あ、会長。俺会長と同室、ヨロシクヨロシク。その節はお世話になりまして」
「…前田か。変な組み合わせだな…もう一人は誰だ?」

ぶんぶんと手を振って自己アピールする前田が、俺の同室者の一人らしい。原田がいねぇと扱いが大変そうだな、とぼんやり思いつつもまぁこいつはかなり人好きのする性格だ。
大丈夫だろうと勝手に結論づけつつもう一人の同室者を探していれば、後ろから「僕ですよ、」と聞き慣れない声が降りかかった。
振り返って、みると。


「……真壁?」
「はい。宜しくお願いします」


なんてこった、まさか立花大好き人間と同室とは。どういう組み合わせなんだよ本当に。

真壁達也。

立花と長谷川とよく一緒にいる、糸目が特徴の奴だ。長谷川と同じく立花に惚れているんだろう、以前こいつからもよく睨まれていた気がする。性格やら何やらは不明。何せ全く接点が無いのだ。
そう言えば俺はこいつに嫌われてるんじゃなかったか?大丈夫か?しかし睨む事も無く普通に愛想よくペコリと頭を下げてくる真壁に、俺はとりあえずは頷いておくことにした。

と、ひょっこり俺の後ろから顔を出した前田が彼を見て。


「あれ、壁っちじゃん。同じ部屋?」
「あぁ部長、いたんですか。はい、そうらしいですね」


………。
………………部長?

知り合いらしく親しげに言葉を交わす彼等二人を、思わず凝視する。
真壁が前田の事を、部長と呼んだ。前田は確かに部長だ。漫研のな。……と、言う事はつまり……真壁は、漫研部員なのか?なんだそれ。人は見た目では無いと言うが、余りにかけ離れたイメージだ。

「…漫研部員か?真壁は」
「え?あぁ、はい。よく意外だって言われますけど、プラモデルが好きなもので」
「……そんな普通なオタクですみたいな言い方……壁っちったら」
「部長煩いですよ、余計な事を言わないで下さい」

ぴしゃりとした口調で後輩に言いつけられた前田は、肩を竦めて拗ねる様に唇を突き出した。何だ、普通なオタクって。普通じゃないオタクってあるのか?
俺が訝しげな顔をしていればそれに気が付いた真壁が、気になりますかとにっこり笑う。どこか含みのある笑みだな…こいつも一筋縄じゃいかなさそうだ。なんて事を考えつつ、正直に頷けば。



「――僕、普段は隠してますけど…実は『腐男子』なんですよ、会長。同室になれて嬉しいです、貴方には色々と聞きたい事があるので…宜しくお願いしますね、本当に」



腐男子。
何だか他所で女子バージョンなら聞いた事があるなと思った瞬間、俺は従姉の美樹を思い出した。次いで意味を理解し、頭に一気にハテナマークが飛び交う。
真壁の良い笑顔に捕まってしまった俺の斜め横で、前田がご愁傷さーん…と呟いていたのを、何だか原田じゃ無いが殴りたくなった。




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