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階段を鬼嶋と一緒にトントンと音をたて下りていけば、父さんと、その腕に目一杯抱きついている母さん――の他に、意外な姿があった。思わず瞳を瞬かせる。

「お、恭夜、鬼嶋。さっきぶりだな」
「…南!」

笑みを浮かべて片手を上げてくる彼に何でここに、と言おうとした矢先、再びその後ろの扉が開く。そこから覗いたのは見覚えのある顔二つ、――南の父親と、母親だった。
彼等はお邪魔します、と何故か上機嫌な状態で家の中に入ってきて、俺に気が付くと二人揃ってにこやかな笑みを浮かべた。笑い方が南にそっくりだ。

「や、久しぶりだね恭夜君。格好よくなっちゃって」
「わあ、ホントねー。もう一回お嫁に行くんだったら恭ちゃんのところが良いな、私」
「えええ、きょっ…恭夜君!千代子さんはあげないぞ!」
「………親父………」
「…や…お久しぶりです、お二人共」

意味の分からないくだりはスルーさせて貰う事にした。バカップルが二組。重い。南も苦笑いをしている。

南とよく似た顔立ちの父親の名前は、鹿川成二。見た目は25のまるっきり好青年だが、これで39歳だって言うんだから驚きだ。
母親の方は鹿川千代子、母さんとはまた違う美人…と言うか、可愛い系と言うべきだろうか。天然の入った、何だかフワフワした人だ。そんな千代子さんに成二さんはベタ惚れしている。息子の南にも子煩悩ではあるけれども。

しかし、何故鹿川家がここに。
俺の後ろにいた鬼嶋に興味を持ち奴に質問攻めをしている南の両親はとりあえず置いておいて、俺は父さんの方に目を向けた。と、母さんに抱きつかれていた当の本人と目が合う。
にこり、いつもの人当たりの良い笑みが、彼の顔に浮かんだ。

「ただいま、恭夜。いや、お帰りと言うべきかな」
「……あー、お帰り。そんで、ただいま」

また身長が伸びたんじゃない、と頭をわしゃわしゃされ、それを母さんが羨ましそうに見てくるのが分かった。息子に嫉妬するんじゃねぇ。アンタも大概父さんにベタ惚れだな、ほんっと。
と、不意にヌッと背後に気配を感じ、驚いて振り返る前に低い声が、ぼそりと頭上で言った。鬼嶋だ。


「………似てねぇ」
「……お前、言うに事欠いてそれか」


…思わず、呆れた声が出る。
今の言葉は、俺と父さんを比べてという事だろう。確かに似ていないと自分でも思うが。
父さんはまぁ、キツめの美人である母さんとは違って柔らかい感じの…言ってしまえば、普通のサラリーマン。素朴、って言葉が似合うと思う。
対して俺は全面的に母さん似だから、仕方がない。俺は父さんに似たかったんだが、遺伝子でも母さんは図々しいらしい。
初対面でいきなりそんな事を言われたら流石の父さんでも驚くだろう…と、思ったが。

「ははは、似てないだろう?恭夜はママと似て美人だからね」
「やだパパったら、うまいんだから」
「…男に美人って、キモいぜ父さん」
「そうかな?あぁそう言えば、君が鬼嶋君だね。僕はこれでも恭夜の父親、何も無いけどゆっくりしていくと良いよ」

常と変らずニコニコしてそう言う父さんに鬼嶋はゆるりと首を動かすと、こくりと頷く。
そんな俺達を見て南は上手くいってるみたいだなと、口元を上げて言った。まぁ1日目だしな…これでもう問題が起こったら流石にメゲるぞ。ってかそれより。


「何でここにいんだよ、南」
「ん?あぁ、ちょっとな。親父とお袋が――」


そう言いつつ首を回し、自身の両親に目を向ける南。と、その成二さんと千代子さんはどうやら身長が高い鬼嶋をいたく気に入ったらしく、キラキラした目で奴を見上げていた。……子供の様な人達だな。乗りたいとか言い出しそうで恐ろしい。

それに笑い、代わりに父さんが俺達を見ながら、言った。


「一緒に食べようと思ったらしくて、食料を持ってきてくれたんだよ。折角恭夜と南君が帰ってきたし、鬼嶋君も遊びに来たんだから。さ、そろそろ準備しよう。皆手伝ってね」


そう言いながら未だ張り付いている母さんと共に、父さんはリビングへと向かっていった。それに続いて成二さん達も、浮かれた足取りでついていく。南が恥ずかしそうだ。
鬼嶋は何があるのか分かっていないのか、ぼーっと突っ立ちながらその後ろ姿を見つめていた。そんな奴に笑い、背中を一つ軽く叩く。



「たまにゃあ、うるせぇ食事も良いだろ」



そう言って笑えば鬼嶋は一つ目を瞬かせると、よく分からないと言いながらもまた、小さく頷いた。





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