「もう最悪ですよ!最初から度胸試しなんて言ってカマキリとか見せられるし、何なんですかあの野蛮な人間の倉庫は!どうして教室内で乱闘があちこちで起こってるんですっ会長!」
「知るか」
「えぇもう私は決めました。Fクラスというくくりであんな人達を詰め込むからいけないんです、彼等は根は普通の人間ですよ多分!それを一気に隔離するから酷くなるんです!えぇ私は!クラス制度を変えますからね!そうすれば点数格差やらクラス間の仲も改善出来ますよそうでしょう!」
「落ち着け。その意見にゃ反対しねぇが、今から頑張ってもこの根付いたクラス制度が変わるのは早くて来年度…いや、再来年以降だろうよ。お前がいる時はそのまんまだぜ」
「構いませんよ!!兎に角、あの魔の巣窟をどうにかすべきです。そうする為だったら理事長だって殴り倒してみせます!」
「理事長殴っちゃだめだろ……」


物凄い剣幕で燃えたぎる東條の後ろ姿を見ながら、俺は思わず喉で笑った。最高の展開だ、このお坊っちゃんがあんな場所に押し込められてそのまま馴染んでいくとは到底思えなかったし、何かしらやる気にはなるだろうと踏んでいた。Fクラスに入れたのは間違いじゃあなかったらしい。
……ここまで怒り心頭で帰ってくるとは、思わなかったが。

それは兎も角、Fクラス制度は俺も前から気に入らなかったから好都合だ。ABCときてDEをすっ飛ばしてのFクラスだぞ?俺がFに入れられていたらそりゃもうキレる。
東條は「会長は手出ししないで下さいねっこれは私の問題です!」なんてクソ生意気に叫んでやがるが、一人で何が出来ると言うのか。しかも補佐が。
また仕事が増えるなと考えつつ双子や篠山に宥められている東條を眺めていれば、南が横に立ったのでそちらに目線をやった。
目が合うと、苦笑い。


「いやあ、凄かったわ東條。アイツ等の前じゃあ笑顔だけはしっかり保ってたけど、内心めちゃめちゃ怒ってるの丸分かりでな。まぁ何とかなりそうだぜ、最初はビビってたけど開き直ったのか、後はもう真っ向から向かってったから」
「…へぇ、まぁアイツもただの坊っちゃんじゃあなかったって事だな」

軽く頷きながら返事をして、俺はそろそろ生徒会室に行くかと考えた。翼に任せっきりだからな、まぁ仕事はあんまり無いんだが。
と、その前に。


「南、お前夏休み暇か?」
「……え?あ、あぁ。暇……かな?何でだ?」


キョトンとした様に首を傾げる南に、俺は先程の泊まりの件について話をした。
そう言えばこいつと旅行なんて、実は修学旅行位しか無いんじゃないか。いや、一回鹿川家の旅行についていった事があったような無いような。あんまり記憶が無い。
ちなみに萱嶋父は東條と南が来て直ぐに、それじゃあベルギーに向かう準備があるからと笑顔で帰って行った。勿論、双子に熱い抱擁とキスを残して。まぁそれはともかく。

三泊と聞いて南は考えるように目線を宙にさ迷わせた後、口元に笑みを浮かべてそうだな、と頷いた。

「何か金の事とか悪いけどついていって良いなら、俺も行きたい。二週間後なら大丈夫だ」
「ん。何か忙しいのか?そういやお前も受験するんだっけか」
「あー…まだ考えてんだよなぁ。ま、ぼちぼち」

肩を竦めてそう言う南にふぅんと返事をして、俺は尻ポケットから携帯をするりと取り出した。
―――南は自分の会社をそのまま継ぐか、大学に行き自分の力で就職をするかで現在迷っている最中、らしい。何度も担任と面談をしているのを知っている。
色々と真剣に自分の将来の事を考えているんだろう。社長なんてどんな事をするのか想像すら出来ないが、たまにこいつがそう言う経営関連の本を読んでいるのを目にする時がある。

色々とあるんだろうな、と考えつつ俺は携帯を握り締め、未だ騒いでいる生徒会役員達に向かって口を開いた。


「おい!俺は生徒会室に戻る、お前等ちゃんとノルマ終わらせろよ!サボったら承知しねぇからな」
「「えー!会長の薄情者ー!」」
「会長ズルい〜…あ、とー君も手伝ってくれたら早く終わるんじゃない?」
「ハッ!?何故私が……っ」
「「旅は道連れイェーイ!!」」


ぎゃあぎゃあとまた騒ぎだす奴等に呆れからの溜め息をつき、俺は再び南にちらと目線をやった。お前はどうすんだと聞くと、少しの間の後に俺はもうちょっとここにいると微かな笑みと共に返事が返ってくる。

……何か最近、南が妙によそよそしいと言うか…いや、表面上は別に普通だし避けられてるとかでも無いんだが…何かモヤモヤする、な。
でもまぁ気のせいかも知れないし、と無理やり自分を納得させて、俺は彼等にひらりと手を振って歩き始めた。東條が双子から手袋を押し付けられている、ありゃああのまま手伝わせられるだろう。
心中でご愁傷さん、と呟きつつ、俺は携帯を片手に弄りながら生徒会室へと向かった。





―――照りつける太陽が鬱陶しい。暑い。暑すぎる。
早く生徒会室で冷たい茶でも飲もう、と思いながら、俺は一人の人間の番号を携帯から呼び出し、そのまま電話をかけた。


プルルル、プルルル。
四回目のコールで、相手の声が電話口の向こう側から聞こえてくる。

『――もしもし、…御堂島か?』
「おぉ。今ちょっと良いか、大した話じゃ無ぇけど」
『あぁ、俺もちょうど用事があった。そちらの話は?』

電話をかけた相手は黒井。
何の用かって、旅行の話だ。今言わないときっと忘れる。黒井にゃ色々と世話になったから、その礼も兼ねて…と言えば聞こえは良いがまぁ、アイツがいれば監視の目が増えるからな。
どうせ篠山等は立花の事も呼ぶ気だろうし、そうしたら長谷川やら真壁やらもついて来るだろうし…そうすると宮村も呼ばれそうだな。アイツ怪我は大丈夫なんだろうか。
と、頭の思考がどんどんズレていく前に俺は奴に話をした。


『旅行?夏休みはかなり予定が詰まっているからな、どうなるかは分からないが…考えてみる。しかし良いのか?俺は関係が無いだろう』
「あー良いんだよそんなの、甘えときゃ。まぁ、予定が合えば連絡しろ。……で、お前の用事ってのは?」


夏休み後の文化祭の事だろうか、とぼんやり考えつつ相手の話を待つ。最後の大仕事は何とか生徒会役員全員で向かう事が出来るだろう。
校舎の中に入ると、ひんやりとした空気が纏って思わず息をついた。……外は本当に、地獄だ。


『あぁ、用事と言うか……お前は夏休み、実家に帰るんだろう?』
「ん?あぁ。だから何だ?」
『…少し、頼みがあってな』


常には聞けない黒井の少し言い淀んだ物言いに、俺は本日二回目の嫌な予感がした。また頼みか。彼の口調からするとろくな事じゃあ無いだろう。が、聞くことを拒否する訳にも行かずに俺は小さな声で、何だと聞き返した。






『実は―――…夏休みの間、鬼嶋を、預かってくれないか』





「……………はぁ?」



…突然の言葉。思わず、固まった。何だ、どういう事なんだ。
鬼嶋を預かる?俺が?何故?いやいやいや、無理だろ。

とりあえず、余りの無茶ぶりに上手く動かない頭で思った事は。



……この夏休みも、平穏無事に過ごすのは、無理そうだという事。







- 95 -


[*前] | [次#]


しおりを挟む

>>>目次

ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -