「いやはや、お恥ずかしいところをお見せしてしまって…飲み物まで頂いてしまって実に申し訳無い。君が生徒会長の御堂島恭夜君だね、話は聞かせて貰ってるよ。いや流石に、立派な子だねぇ」
「………はぁ」

蒸し暑い温度にこれまた何だか暑苦しいおっさんが加わったなと考えつつ、俺は彼に適当な返事をした。

喋る事が好きな性格らしく、双子との感動のシーンをやり終えた後は篠山に向かってひとしきり喋り終わり、今度のターゲットは俺へと変わった様だ。ペラペラと饒舌に喋りまくる内容は今回の萱嶋等がかけた迷惑への謝罪、と思いきや話は段々とうちの子自慢みたいになっている。さっきから俺は右から左へ聞き流しているんだが、気付いている様子も無い。

「それでだね、うちの子達も本当に思い込みが激しかったりする訳なんだがそんなところも可愛くて可愛くて!寮生活で不埒な輩に襲われたりなんかしてないかっていつも心配で心配でならないんだ……ねぇ御堂島君、君もそう思うだろう!?」
「はぁ……そうですね」
「そうだろうそうだろう!!!話の分かる子だ!!で、そんな君に一つ頼みがあるんだが!!!」

不埒な輩に襲われるどころかこいつ等はその不埒な輩を使って俺を襲おうとしてたんだが、と心中で考えつつ振られた話に適当に相づちを打てば、萱嶋父はいきなりガッと俺の両肩を鷲掴みぐぐぐっと顔を近付けて来た。近ぇ近ぇ。
頼み、と聞いて嫌な予感しかしないんだがここで話を聞かない訳にも行かない。
何ですか、とやたら顔の距離が接近している中で俺は彼にそう問うた。声が若干上擦ったのは仕方がない。


「うん!!頼みと言うのはね、……海くんと空くんと、夏休みに一緒に、遊んであげて欲しい!!!!」
「………」


やたらと輝いた瞳で俺を見詰める相手の表情を薄眼で眺めながら、俺は溜め息をつきたいのを全身の力を持ってこらえた。

…………本当に、頭が痛い。





****



話は、こうだ。

萱嶋家の予定では夏休みは二週間後、家族揃ってグアムに飛ぶ筈だったんだが、いきなりベルギーの菓子会社の社長と交渉をしなきゃならない予定が入っただとか云々かんぬんで旅行は中止になりそうなんだと。新しい大掛かりな企画を考えている為、萱嶋父はベルギーに長期滞在になるらしい。
が、そうすれば双子は今年の夏は何処にも行けない事になる。それは忍びない、と言うか可哀想で仕方がないと、萱嶋父は俺に訴えた。知るか、夏休みに何処かに行かなきゃならないという規則はねぇ。
まぁそれは兎も角、だからと言って母親と双子だけで旅に出すのは例の不埒な輩が何とかで断固反対と言う訳らしく…愛妻家なのか何だか知らねぇが、そこでまた萱嶋母の魅力について何分か語られたのは省く事にする。

そんなこんなでまぁ言うなれば海翔と空翔の保護者的なポジションになり、一緒に旅行に行って欲しいと。
萱嶋父の主張は、そういう事らしい。

母親はどうするんだと聞けば彼女は彼女でミュージカルやらオペラやらを観に行く計画を立てているんだとか…くそ、だからって何故俺に子守り役が回ってくるんだ。双子もその劇鑑賞について行けば良いじゃねぇか!


「頼むよ御堂島君!!!夏だし暑いからとっておきの別荘をとったんだ、山でも海でも行ける最高の場所だから!誰を何人呼んでも良いから海くんと空くんを見守ってあげてええええ」
「…俺実家に帰るんですが…」
「二週間後だから!!たったの3泊だから!!何ならご家族も一緒で良いから!!」
「いやいやいや、うちの親は夏も仕事あるんで」


そう言えば萱嶋父は目をぱちくりと瞬かせた後、そうなのかい?と聞いてきた。見た目だけはやたらとダンディだが中身はかなりガキっぽい人だ。
俺の父親は普通のサラリーマンで、まぁ休みもあるっちゃあるが最初の一週間程度のみだ。母親に至っては自由業――まぁカメラマン、いやカメラウーマン?な訳だが、年中何処かに出かけてしまっている。だから俺は夏休みに家族で旅行なんて、生まれてから恐らく一度も体験した事が無い。

そんな事を考えていた時、ひょこりと誰かが俺の背中から顔を出した。篠山だ。


「すいませーん、それって、俺も行って良いんですか〜?」
「ん?勿論だとも!!皆で楽しんでくれ!!」


何だか余計な事を言い出した、と思ったがやった、と嬉しそうな顔の篠山に何も言えず、続けて少しばかり恥ずかしそうに自分達の父親を見ていた双子が同時に声を上げた。

「「行こうよ会長ー!僕ら迷惑かけたお詫びに楽しませたげるよっ」」
「……あのな……」
「そうだよ会長〜行こう行こう!楓とかも呼ぼうよ〜あ、みーちゃんとかとー君も呼べば良いじゃない」

腕に突撃しながら俺をキラキラした目で見上げる双子に呆れていたら、篠山も便乗してウキウキした顔でそう言った。迷惑かけたお詫びって、お前等はただ遊びたいだけだろうが。って言うかとー君って誰だ、と呟けば。

「元副会長の東條だよ〜、副会長ってもう呼べないから、とー君!可愛いでしょー」

なんて言いながら篠山はカラカラと楽しげに笑った。その名で呼ばれた時の東條の微妙な顔が思い浮かぶな。



とにもかくにも既に行く気満々の彼等に最早何を言っても無駄らしく、まぁ今年の夏も特に用事は無いから別に良いかと俺は溜め息をつきつつそう考えた。いや、受験はあるから勉強しねぇといけないんだが。三泊位は、良いだろう。
南や翼も呼んで、後は紫雲とか、おまけに黒井にも声を掛けてやれば俺の気苦労も少しは楽になるだろう。……逆に大変かも知れないが。



「わーったよ……行けば良いんだろ、行けば。羽目外しすぎんじゃねぇぞ」



そう髪の毛を掻き上げながら言えば、双子と篠山はわーい!!と万歳でもするかの様に嬉々として声を上げた。そんなに行きたいのかよ。


その後、萱嶋父の「ありがとう!!これからもうちの子達をよろしくね御堂島君!!」なんて暑苦しい握手でブンブンと手を振られていた時、俺は向こう側にこちらに向かって歩いてくる二人の人間を見付けた。
俺を見て笑顔で手を上げる南と、何だかげっそりした顔の東條。何があったか一発で分かる表情だ。


そういや生徒会室に行かなきゃならねぇんだよなと思い出しつつ、未だ手を上下に振られながら、俺は近付いてくる二人を遠目に眺めた。





- 94 -


[*前] | [次#]


しおりを挟む

>>>目次

ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -