何もない、と続けようとした俺の言葉を遮って南が横から口を出してきた。本当にそんな大げさなもんじゃねぇのに、四谷はそう聞いた途端あ〜なんて呻きながら頭を抑える。何だその反応は。

「ほんとに恭ちゃんは頑張り屋さんなんやから〜…自分の体大切にしい言うたやろ!ちょっとは休む事覚えな!何時でもここ来て寝てもええんやd」
「いらねぇ、それと恭ちゃんって呼ぶな!さっさと薬出してこい!」

…鬱陶しい。この粘着質な感じの絡み方が心底、鬱陶しい。何だ頑張り屋さんって、俺は小学生か。
俺の一喝に変態は口を尖らせながらも立ち上がり、薬なあ〜なんてぼやきつつ棚の中を漁り始めた。こいつは本当に教員なのかと疑う時が多々ある。
軽く息を吐きつつ南に早く帰りたい、みたいな視線を送ればもうちょっと待ちなさいなんて事を小声で言われた。お前はおかんか。って言うか二度目だが俺は小学生か。
「お、あったあった。皆の味方〜ボフォリン〜!」
テレッテテッテッテ〜ンと何処かで聞いた様な効果音を言いながら、奴は何だか危なげなモンを取り出してきた。…そんな薬聞いた事ねぇぞ。
「何言うてんねんめっちゃ効くでぇ、これは。何たってボフォリンの半分は優しさ、もう半分は俺で出来とるさかい」
「全力で受け取りを拒否する!」
「冗談やって」
安心して飲みぃや、なんて言いながら押し付けてくるそれを渋々ながらも受け取る。…まあ、ちゃんとラベルも貼ってあるし平気だろう。本当に疲れた時にしか飲む気しねぇけど。
しかし本来ならば癒しの場である筈の保健室に来たと言うのにむしろドッと疲れた。早く帰ろう、翼に仕事押し付けちまってるし。


ありがとーございました、と抱き付いてこようとする奴の鳩尾に一発入れつつ適当に言えば、奴はお腹を押さえて呻いていた。良い気味だ。
「お前ちょっとは手加減しろよ…」
「しただろ。物凄く」
哀れみの目線で変態保険医の方を振り向く南の横を通り抜ける。少しだけすっきりした様な気がする。
そのまま扉から出ようとした俺の背中に、四谷は一声、掛けてきた。




「あんま無理すんなよ、…恭ちゃん」




「……」
――畜生アイツ、鳩尾の一発は全く効いてなかったみたいじゃねぇか。何で標準語なんだよ、腹が立つ。
振り返りもせずにずんずんと歩く俺の後ろから、微かに笑う声が聞こえた。本当に、腹が立つ!
「おい恭夜、ちょっと速い」
「うっせぇっ、さっさと来い馬鹿!」
「怒るなよ、生徒会長サン」
ゆったりと歩きながら喉で笑う南を少し睨み付ければ飄々とかわされる。どいつもこいつも俺を馬鹿にしすぎじゃあねぇか?

大きく息を吐きながら歩きつつ、手持ちぶさたでポケットに入れた薬の形を何となくなぞった。





…今日は疲れた。物凄く。






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