unrequited love

「越前の酒は美味いなあ」

美濃に居たころに味わったものよりずっとだ。ほんのりと頬を紅に染めながら、かつての美濃国主は言う。ときおり、へにゃりとした笑顔を見せながら、たわいもない会話に乗るその姿は一層愛らしく見える。素面のときに自分が絡むとほぼ確実に嫌な顔で拒むのだけれども。普段がそれということもあり、このとき山崎吉家はなかなか見たことのない斎藤龍興の表情に、胸の鼓動が速くなるのを感じた。

「そりゃあ……まあ」
「と言いつつ、全然飲んでないじゃん」
「わ、私は」

あなたのそのしあわせそうなお顔を、こんなに近くで見れるだけで……とはまさか言えまい。しかも今の龍興はほろ酔い状態なのか妙に距離が近い。それゆえ、照れ隠しに少し離れてみてもまたすぐにぐっと近づかれる。この方の悪い癖だ。吉家は思った。

「ん?どうした、いつもの吉家どのらしくないな」
「……龍興どの、その、」

近い。そんな距離で、しかも着衣の少し乱れてるあなたに迫られたら私は理性を保てない。今すぐ押し倒して身体を重ねてしまうかもしれない。それだけは避けておきたい。恋心を抱いているとはいえ、龍興とはまだお互いに恋仲同士ではないのだから。のばした両腕で必死に抵抗するも虚しく、片手首を掴まれてまた距離を縮められた。

「いいじゃん、今日くらい。こんなに美味しい酒を独り占めするの、なんかもったいないし……ね?」

そう言ってまた先ほどの愛らしい笑みを浮かべる。人の気持ちも知らないで、と思いつつも龍興の手から盃を受け取った。

「……じゃあ、少しだけ」

少し前まで龍興が口をつけていた盃。それは間接的に唇を重ねてることに等しいもの。この御仁は、無意識にそんなことまでするのかと思うと尚更、平常心を保てなくなる。
ひとくち飲んだら龍興どのには悪いが早めに帰って頂こう。そして、この昂った想いをいつも通り褥の中で放つとしよう。そのつもりでいた。だが、想像以上に飲みやすく美味な酒であった。これはもしや、と龍興に尋ねる。

「義景どのがね、俺にくれたんだあ」

ああ、やはり殿の仕業だったか。
吉家のあるじ、朝倉義景は少々気が弱いけれども家臣や領民を大事に思う良い君主だ。だが、ときおりそれが度を超えてしまうことがある。加えて吉家が密かに龍興へ想いを寄せているのを知っている。打ち明けた際、叶わなくても良いとは言ったのだが、これも日頃から朝倉家の為に尽力してくれている吉家のしあわせを願ってのことなのであろう。
後ほどお礼をしておかねば、と思っていたときである。龍興が胸にもたれかかったかとおもうと、うとうとと微睡み始めている。

「龍興どの」
「んぅ……?」
「だめですよ。こんなところで眠っては」

まだ涼しくなったばかりとはいえ、龍興は越前の気候に慣れてはいない。風邪を引きますよと横抱きにして部屋の中に連れていこうと思った。だが、酔いが醒めていないのだろうか。両腕を首の後ろに回され、蕩けた目でじっと見つめられる。もはや、吉家は限界だった。気がついたときには半ば強引に唇を重ね合わせ、濃厚に舌を絡めていた。

「……ん、はあ、ッ……なに、を」
「すみません、こんなつもりではなかったのですが」
「ふあ……っ、や、やめ、」
「焚き付けたあなたが悪いのですから。ちゃんと、責任とってくださいね」

龍興は何のことだか、とでも言うかのようにぱちぱちと瞬きをする。突然の口づけに酔いが少し醒めてしまったのだろうか。先ほどまで、あれほど積極的になっていたのに今度は龍興の方が必死に抵抗を始める。

「待って、俺、こういうのは」
「初めてではないでしょうに」
「そう、だけど……でも」

いや、と龍興は怯えた目をしながら首を横に振る。その表情すらも、どこか愛らしくて。唆られる、と吉家は思った。下半身に熱を感じると思い目を向けると、そこは既に龍興を抱きたいとでも言わんばかりに屹立している。

「ひっ」

それを目の当たりにした龍興は更に怯え、四つん這いで逃げ出した。だが、まだ酔いの回っている身体では上手く動けず、瞬く間に吉家に捕まってしまった。

「龍興どの、私……もう、我慢できません」

裾を捲り上げ、露わになった肌に思わず息を呑む。城主だったころから、外へ出るのを好まなかったためだろうか。あまり日に焼けておらず、瑞々しい肌はそれだけでも魅力的であった。気がつけば幾度もその肌に唇を落としていた。

「よ、吉家……どの。も、もう、充分……だろ」
「充分というのは」
「たくさん見たんだし、そろそろ」

解放してほしい、と懇願する。どうやら龍興は吉家が酔って悪ふざけをしていると思っていたらしい。

「まだ何も始めてませんよ」
「で、でも、さっき……臀に」
「これから龍興どのを抱くのですから、あのくらい当然でしょう」
「えっ、ちょ、本気で言ってんの」
「私はずっと本気ですよ」

臀の割れ目に顔を埋め、舌で秘孔を刺激すると龍興は短く喘ぎ始める。

「あっ……んッ、や、だめ……そんなとこ、」
「大丈夫ですよ。それに、こうしないと龍興どのがおつらいでしょ」
「は、うう……で、でも……ひゃう……!?」

不意に秘孔の中へ指をグッと挿れられた。淫らな水音が龍興の耳にもよく聞こえる。ときおりそこを拡げられ、しばらくすると指が増やされたような感覚がした。

「龍興どの、痛くないですか」
「……うん。今は……なんとか」
「よかった、それじゃあ」

力抜いててくださいね、という優しい声。やわらかな双丘を掴まれ、屹立した竿を秘孔に押し当てられる。思っていたよりも太くて硬いそれが、ゆっくりと中へ挿ってきた。

「う、くっ……」
「……はあ……ッ、私、龍興どのと……やっと、」

吉家は心底嬉しかった。初めて出会った日から、ずっと好きだった人。片想いであるため、正直肌を合わせられるなど夢のまた夢だと思っていた。それがまさか現実になる日が来るなんて。
殿には後でなんとお礼をしたらいいだろうか。そんなことを頭の片隅で考えながら、龍興の内壁を刺激する。腰を振る度に、龍興が嬌声をあげながら身体をガクガクと震わせる。

「あ……あ、んっ……よしいえ、どの……」
「ふ、は……ぁ、龍興どの、気持ちいいですよ。なか、こんなに締まって」
「や……ッ、だめ、おく……そんな、はげし……で、でちゃ……」
「ふふ、じゃあ一緒に」

ドクドクと精が放たれる。気分が昂揚していたからだろうか。思っていた以上に放ってしまい、溢れた分が龍興の秘孔から流れ出る。

「あ……うう……」

腰が砕けたのか急に力が抜け、ゆっくりと龍興は崩れ落ちる。そして、意識がぼんやりとしていくのが分かる。少し眠たい。己を横抱きにする吉家を見上げると、ひどく申し訳なさそうな顔をしていた。

「すみません。今度こそ寝所へ運びますから」
「……うん、ありがと」
「おやすみなさい、龍興どの」

愛してますよ、と続けたがその言葉を聞く前に龍興は眠りについていた。返事を聞くことはできなかったが、それでも吉家は満足であった。

2023.10.13 了




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