▼ ゆめうつつ
目を開く。目を瞑る。目を開く。目を瞑る。瞬きを幾度か繰り返して光に目を慣らそうとする。眩い光に鮮やかな色彩は目に痛い。拒むように、また眠気に勝てなくて、目を細めてしまう。すると睡魔に襲われて夢の世界に誘われる。
ふわふわと何もかもが曖昧で、今ここはどこだとか、いつだとか、全部どうでも良くなって微睡みに身を委ねたくなる。
「タッセ」
私の名前を呼ぶ声が、沈んでは浮かんでの茶柱をスプーンで強制的に上げさせた。視界に入ったパンジー色はぼやけていても存在感に溢れている。
手を伸ばすと案外触れることが出来た。特に手入れはしてないらしいのにしっとりとしていて柔い肌だ。包むように手を広げれば、傷にたどり着き、椿の葉のような不自然な肌触りになってしまった跡をなぞる。指先に当たった前髪はさらさらとしていてディルのよう。あの人はこんなに触らせてくれないから、やはりこれは夢だろう。
「くらっかーさん」
名前を呼ぶ。それだけ。好きだなぁという思いを込めて、だけど夢の中でさえ安く言ってしまうのは惜しくて、ただ名前を呼ぶ。…この夢が覚めなければいいのに。また沈む意識の中、肌に何か触れたかもしれなかった。
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