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▼ ビッグマムの船

 曰く、これは商談である。つまりは戦いだ。目的を達成する為、つまりは勝利の為、口や表情、動作などを武器にして行う戦いだ。

 こちらからは自分一人、先方の用意した船で先方の元まで行かねばならない。随分勝手な物言いにも思えるが、相手は海賊だ。下手に策謀していると怪しまれた瞬間に殺されてもおかしくは無い。大海賊の名に恐慄いた家が我が身可愛さに、娘1人を差し出した…と思わせた方が都合が良い。


 …なんて意気込んでは来たものの…強敵がすぎるなぁ…

 私の知っている海賊と違いすぎる、とタッセの心が早くも重傷を負うのは仕方の無い事だった。

 色鮮やかに彩られた船に始まり…いやこの際これは大した問題ではない、海賊には派手好きも多い。船の甲板に乗るケーキに始まるお菓子の数々。聞けばオブジェでは無く本物で食べれるそうだ。傷まないか心配するのは余計なお世話だろうか。動き回る人員の多くから、何か人とは違うものを感じる。それ以外にも人間族以外の姿もよく目にする。魚人だけは見慣れていたがそれ以外は初めて見る種族ばかりで、不必要に驚いていないかも不安だ。


「改めまして、万国到着まれお嬢様のお付き件護衛をさせていただきます。キャンディと申します。何かございましたらこの私にお申し付けくださいませ」
「…エンズレイ・タッセです。よろしくお願い致します」

 相手の不意を付くのは交渉事の基本。小人族を迎えに来させるなんて、ビッグマム海賊団は有能な交渉人が多いらしい。

 商人として生きているタッセの両親や兄姉とは違い、タッセ自身はただのお茶好きの小売りだ。つまりは交渉事には慣れていない。つまり高等な頭脳戦は出来ない。ならば出来ることとは言えば、静かにお上品で、更には物静かで何も語らない娘を演じる事だけだ。こちらの情報は提示せず相手に話させる。船内で無口なだけなら「初めての国外で緊張していた」と言い訳が出来る。こちらの印象は透明な方が後出しが効く。


 本島の港に停泊していた船はタッセを乗せるとすぐに出港準備へと取り掛かった。帆を張れ、操舵手の当番表はどこだ、見張りは出来たかなどとタッセの耳慣れない言葉が飛び交っていて、摩訶不思議な場所ではあるが本当に船の上かのだと実感する。

「航程は5日を予定して居ます。お嬢様の感覚では長いと感じるかも知れないれすが、幸いにして彼のビッグ・マムの船ですから退屈は無いと保証致しましょう。何か気になる事したい事などございましたら遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます」

 お人形さんのような小人がホーミーズ、と並の人程度ひとの上に乗りながら解説してくれた。地面を歩くとどうしても小走りしなければならない上に、お互いの身長差による話しにくさの解消のためだ。付き人らしいその台詞と絵面のギャップが大きい。改めて気が緩みそうでいけない。

 
 広い船の中の1階…と言っていいのだろうか?甲板から続くフロアの扉にキャンディが声をかけた。

 扉に、声を、かけた。

 すると、動いているなぁとは思いつつ気にしないようにしていた扉の顔模様が眠りから覚めて、ド〜ア〜〜と歌いながら開いた。表情が変わるだけではなく話すのか。

 流石に目を丸くしたタッセにキャンディが解説を入れる。この船には無機物に魂を入れられたホーミーズと呼ばれる存在がいて扉や兵、食器などにもホーミーズがいるそうだ。なるほど、人のようで人ではないもの達はそれかと合点がいく。お気に召したのれしたらお部屋にお連れしますよ!という真心…に見えるそれを大丈夫ですとやんわりと断った。私室では羽を伸ばしたい。

 部屋に入れば幸いにして広く、船の外観よりも落ち着いた色彩、そして何よりそのホーミーズ、とやらがいないようで安心した。扉の内側にもいるのかと思い少々萎縮してしまっが杞憂で終わった。タッセが目を瞑って周囲を探ってみるが、自分たちの気配以外感じなかったように思う。寝室はそっちのソファの左の扉、キッチンはこっち、シャワールームは…と簡単に案内をしてくれる。

 …1人になれたらお茶にしよう。疲れたからラベンダーティーでも飲みたい。



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