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▼ 家族会議

 タッセの住まう島から、天候が良く手馴れた航海士の先導があって、1時間の距離に【本島】と呼ばれる島がある。近くにある島々の中では植物の育環境としては質は下がるが、海流が安定してるために比較的他の島との行き来が出来るため物流が確立されている栄えた島だ。

 その栄えた島の中で一際大きく豪華な屋敷が1軒ある。その屋敷の正門にを前にタッセはため息をついた。慣れた手つきで植物モチーフのレーフの付いた門を開く。

「ただいま…」

 …別に実家が嫌いな訳では無い。ただ呼び出された理由が理由なだけだ。



「おかえり」
「ただいま」

 門から玄関まで地味にある庭を歩いて、長々とした廊下と階段を登ってやっと広間にたどり着く。家を出てから気づいた、無いなら無いなりにそこまで必要でもなかった豊かさの空気に触れる。そしてその先にいたありふれた家族の挨拶を交わす。数年ぶりに交わす言葉にしては愛想がないが、かと言って険悪さも特には無い。一般と比べて、少々変わり者家族なだけだ。


「早かったな」
 長兄。
「で、心当たりは本当に無い訳?」
 姉。
「ない。というか何が何だか分からないから説明して」
 末妹。

 帰って早々の家族会議。皆が広い部屋の中の一角に置かれたL字ソファに集まっている。話が早いのはいい事だ。

「何が何だかわかってないのは全員一緒だよ。海賊の考えは分からない」
 父。
「『ビッグマム海賊団シャーロット家10男がエンズレイの次女に結婚を申し入れる』としか言ってきてないから、こっちも困ってるの」
 母。


 言うなれば家族五人とも理性的、多くの物に対して頓着が薄い。その為淡々と頭を悩ませる。

 エンズレイ家は陶磁器の生産と販売を行っている。その陶磁器の中にはティーセット等のカラトリーも含まれる訳で…つまり、ビッグマム海賊団とも全く無関係という訳では無い。…無いがそれだけその程度とも言える。謎は深まるばかりだ。


「というか10男とは…」
「文字通り『ビッグ』マムなの。60人兄弟だったっけ?」
「…は?」
「いやもうちょっといた気がする」
「待って」

 両親と共に外の島と商いをする兄姉はタッセより少しだけ相手に詳しい。60兄弟の10男。島毎に文化なんて千差万別なんて言うまでも無い偉大なる航路であっても海賊は一般人の常識を遥かに超えてくる。おかげで早々からタッセは頭を抱えてしまった。クラッカーと『常識』について話し合っていた時の感覚に近い。

「本当になんでタッセ?一応私も兄貴もまだ未婚なのに」
「…貴女は婚約が決まった所でしょ?」
「ついこの前ね」
「とは言ってもそんな事を気遣ってくれるような相手では無いだろう」
「…ちなみにあっち今どんな感じ?」
「確か10女が先日婿取りして、8男の結婚が決まったところだったと」
「あれ、9男は?特殊な種族?」
「特には」
「……益々意味のわからん組み合わせだなぁ」

 タッセが混乱している間にもどんどんと話し合いは進んでいく。しかも今何か重要な情報が混じっていた気もする。

「一応ビッグマム海賊団は上客のひとつではあるけれど、商売仲間にしたいかと問われれば微妙な所だよな」
「現状維持が最善だけどそうもいかないでしょ?大人しくタッセを渡すしかなくない?」
「海賊を相手に機嫌を損ねるとすぐに武力行使してくるからな…」
「嫌だ」

 決まり、と誰かがそう言う前にタッセが口を挟んだ。四対八つの瞳がタッセに向けられる。…多くのものに対して頓着が薄いこの家ではあるが、逆に本当に気に入ったものや一度好いたものにはかける熱量はかなり強い。…例えそれがどうにもならない事でも抗議のひとつも上げたくなる程に。


「私、結婚したくない」

 嫌だ。どこの誰とも知れない男と結婚なんてしたくない。私はあの島であの店であの人の迎えを待っていたい。


「…私が代わりにはなれないからね。あっちは次女、タッセを指名している。それに私は私で決まった婚約者を蔑ろにも出来ない」
「おれが代わろうにもなぁ…相手は嫁を欲してる以上男が行ってもどうにもならないし」
「どうしても嫌なら貴女が行って、貴女が円満に破談にするしか無いわね」

 そして彼女のその性質は家族共通で、つまりは気持ちは分かる。…例え結論が変わらないとしても、気持ちを尊重する事は出来る。ビッグマムからの縁談の話は一旦終了。これからは円満破談をする為の話し合いが始まる。


「惚れた男の為なら、慣れない事でも最善を尽くしなさい」

 久々に家族に撫で回された、気がする。話し合いに使える時間はビッグマムからの遣いの者が痺れを切らすまで。つまり極わずかだ。



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