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▼ 修行中

「…どう、かな?」

不安げな表情でテーブルにつく彼女達に問う。そしてそれは彼女たちの笑顔によって安堵に変わった。

「間に合った!」

歓喜の声をあげる。裏腹に身体はほっとして力が抜け、タッセがへたり込んだ。今日は2月13日、つまりバレンタインデー前日だ。このキッチンも例に漏れずカカオの匂いに溢れている。
テーブルの上には試食用に小さく切り分けられたナナイモバー━ビスケットとクリームを重ねたチョコレートバーのことである━が乗っている。

「…怒られない程度の物になってればいいけど…」
「タッセちゃんは前に兄さんといっしょにおかしを作ってほめられてるってきいたわよ?」「そうよ、なにがしんぱいなのよ!」
「『幼児期の自分よりは上手い』って褒められたに入るのかなぁ…?」

シフォンとローラが左右からペシペシとタッセを叩く。お菓子作りの腕前がプロ級である彼女達にお墨付きを貰って尚、タッセはまだ自信が持てない。だがあまり不安そうな顔ばかりしていても失礼だろうと切り替えた。

「手伝ってくれてありがとうね。シフォンちゃん、ローラちゃん」
「「どういたしまして!!」」

目の前の二つの頭を撫でて礼を言う。幼いながらこの2人も下手なパティシエよりも上手くお菓子を作る。特に妹の方は今回でチョコレート菓子作りに目覚めたようだった。

正しくタッセはお菓子作りに於いてド素人だ。その上、甘党でないのが災いして甘いお菓子の善し悪しが分からない。その為このバレンタインに備えて数週間の間、手の空いているシャーロット家の女性陣やパティシエに習いながら、少しでも美味しいお菓子が作れるようにと練習を重ねて来た。それでもやはり付け焼刃。どこまで通用するのだろうかと不安は拭い切れない。ローラ達への反応はこのためだった。

「大丈夫だタッセ。この短期間で目を見張る程に上手くなっている。自信を持て」
「スムージーちゃん…」
「もし兄さんが不味いなんて言ったら全力で蹴りを叩き込んで一滴残らず絞ってやる」
「スムージーちゃん?しなくていいからね?」

双子の引率がてら来ていたスムージーが不穏な事を言うが、実行しそうで怖い。
気を取り直して気持ちを落ち着かせる。慎重に一般的なものよりも幾らか大ぶりにナナイモバーをカット。飴細工で飾り付けてラッピングを施す。

バレンタインデー、恋人達の日は明日である。



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