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▼ 子守りはお手の物

「なんだこれは」

クラッカーが店内へ入ると、そこにあったのは『混乱』と形容する他ない物だった。

テーブルに置かれた甲高い声をあげるバスケット。頭を抱える店主。男従業員はバスケットを覗き込みながらぶつぶつと「どうすりゃいいんだ」と呟いている。女店員は男の背にピッタリと隠れている。椅子は半数がテーブルの上に乗っていて、布巾は置きっぱなしになっており、床には箒が転がっている。

…邪魔なら殺せばいいものを

昨日の事で機嫌の良くない事も相まって海賊らしい思考をするクラッカーは足を進め、泣き続けるバスケットもといその中身、赤ん坊を覗き込む。そして縊り殺そうと手をかけた。

「クラッカーさん……?」

だが不安を孕んだ声に、その手の動きは赤ん坊の頭の下に差し込む動作に変わる。念の為、とその大きな手で頭と首を支えながらバスケットから出してやると案の定の匂い。その行動が思いがけなかったのか店員3人は固まって動けない。そこにクラッカーが指示を出す。

「綺麗で捨ててもいい端布とそれなりの太さのある紐を持ってこい。同じく捨てていいタオルを2つ、ひとつは濡らしてもうひとつは乾いたままでだ。…どうしたさっさと動け」

クラッカーの声を合図として言われるがままに指示された物を持ってくる3人。ものが揃うとクラッカーはてきぱきと赤ん坊のおしめを取り、お尻を拭き、端布と紐による即席の簡易おしめに取り替える。すると泣きじゃくっていた赤ん坊は途端に穏やかな顔になって快なのか不快なのか判別しづらい声をあげた。

「それでだ、どうしてこうなった…?」
「わ、私が、今日早番で…今朝店の入口にこの子が置かれてて……!!とりあえず中にいれたんですけど…」
「何をどうしていいか分からず途方に暮れていたと?貴様らには弟妹はいないのか?」
「3人兄妹の末っ子なので…」
「兄弟2人の同じく下なんで」
「ひ、一人っ子です…!!」
「ハァ…」

ジト目で従業員組を見つめる。つまりこの3人は現状において配属初日の使用人程の役にも立たないという事だ。仕方がない、と赤ん坊を片腕に抱えてキッチンに移動する。基本は乳母が世話をするとはいえ、何十人の弟妹のいるクラッカーからすれば赤ん坊を抱えながらお菓子を作るなんて造作もない。しかしそんな事は知る由もない3人はその様子を目を丸くして見つめる。

「おれが役に立たない人間を無理に使おうとする間抜けだとでも?急がんといつまで経っても店を開けられんぞ」

その言葉に棒立ちで固まってっていたのがやっと動きを取り戻した。だいぶ時間をロスしてしまったがここは店で現在は開店準備の仕事中である。



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