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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 雨の日の店

日は昇ったというのに空が暗い。風は吹いても湿気った空気には爽やかさの欠片もなかった。タッセが部屋に入った頃には降り出していた。

ざあざあと樽でもひっくり返したような雨音に時折風に乗った雨粒が窓ガラスを打つ音が混じる。

「忙しくないから本当に気にしないで、うん、じゃあまた明日ね」

がちゃ、と電伝虫が鳴くと同時にニルギリが不満を口にした。

「雨漏りで休むとかアイツ…」
「本人のせいじゃないんだから、うだうだ言わないの」
「ういっす」

店内にはタッセとニルギリの2人しか居なかった。しらおれは家が雨漏りに合い出勤が厳しいと今連絡があったところだ。
茶葉は所詮嗜好品であり生活必需品ではない。それを求めて態々一軒ぽつりと建つ店に来る者など早々いないだろう。

早い話客がいなくて暇なのだ。

まぁ、普段手の回らない箇所の掃除や茶器の手入れになど、暇なりにやれる事は色々とある。在庫の品質管理に時間をかけてもいい。実は茶葉はデリケートで変質し易くいくら注意をかけてもいい類のものである。

これらはこの店に勤める2人なら難なくこなせる類の為やはり問題ない。むしろ2人もいらない程で、3人揃って昼休憩を取った時には粗方の目処は付いてしまった。問題は他にある。棚の一角にある箱を開けてタッセは唸った。同じく暇を持て余していたクラッカーは彼女の背後から一緒に覗き込んだ。

「桜餅と引千切か」
「よく知っていますね」
「そこまでマイナーでもないだろう?丁度いい、午後はこれを食うか」
「いいんですか?」
「お前が選んだものでないなら信用できる」

ちなみに午前のおやつは店頭に並ぶ予定だったお菓子の数々だった。さらりと述べられた事実、もとい罵りをタッセは聞き流し、クラッカーはどうせなら緑茶に合うので作るかと呟いて頭の中でレシピを思い浮かべ始めた。

客もいないし、どうせならニルギリも誘うかと声を掛けようとすれば遮るように声を被せられる。

「タッセさん、東の谷のばーさんとこ配達してきてもいいっすか?」
「?いいけど」
「じゃ、行ってきます」
「あ、ついでにしらの様子も見てきてよ」
「…なんでっすか」
「そのまま帰っていいから、ね?」
「…分かりましたよ」

不服そうな顔で品物をバスケットに詰め始めるニルギリは、そもそも行く気しか無かったのだろう。さっさと準備をして行ってしまった。



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