▼ ビスケット以外は普段作らない
※in万国
コンコン、とドアをノックするとドア自身から「お入りなさーい」と陽気な声がドア自身からして独りでに扉が開く。タッセはまだこのホーミーズを利用した仕組みに慣れなくて、扉にお辞儀をしてしまう。
ゆっくりと中を探るように部屋に入るとテーブルにケーキ、スコーン、ビスケットなど多種多様かつ大量のお菓子を並べるクラッカーがいた。
「2時57分、ギリギリだな」
「今日お店お休みじゃないんですけど」
「おれは貴重な休みだ。おやつぐらい付き合え。このおれが、お前の為に、直々に、作ってやったのだぞ」
「だからね?お店もおやつ時とその前が1番忙しいんだけどね?」
などと言いながらもタッセはテーブルに近づく。すると慣れ親しんだ匂いがした。まだお茶は入れていないのに紅茶の匂いがする。
「この前発注ミスでダストが大量に余っていると言っていただろう。丁度いいからお菓子に使った。今日は紅茶尽くしだぞ」
楽しげな、また、自慢げなクラッカーにタッセも笑みを浮かべる。この人だけではないが、この人は特にお菓子のこととなると子供のような無邪気な笑顔を浮かべるのが可愛らしい。
「うちの店でも今日は紅茶を推してるんです」
「…?」
「今日は紅茶の日だから」
クラッカーが首を傾げるながら席につくとタッセは説明を始める。
元いた島で紅茶が広まったきっかけの日なんです。何十年か昔の遭難者が救助された島で、初めて島民がお茶会に招かれたのがきっかけだとか。
昔オーナーに教えて貰ったな、と古い記憶を思い起こしながらポットに茶葉を入れる。
「ふーん」
「興味無さそうですね」
「万国には関係ないからな。それにこの手の話はどうせ先代からの受け売りだろ」
「…そうですけど」
コポポポポポと勢いをつけてお湯を注いで、砂時計をひっくり返す。タッセは急にクラッカーが機嫌を損ねだした理由が分からない。
「それにしても沢山作りましたね……食べ切れますか?」
「このくらい食べれるに決まっているだろう」
「毎度思うんですがあなた達の別腹は底なしですか…」
「お前が食べなさすぎなのだ。万国の住民でそれは異様だぞ」
「前と比べるとこれでもかなり食べるようになったんですけど…?」
話を変えてみたら今度は生き生きとなじられた。タッセは不服だが、渡した紅茶を飲んだクラッカーが「美味い」と言うだけでそんなことはどうでも良くなってしまう。
「この国のお菓子は甘すぎるんですよ、私はクラッカーさんの作るお菓子が好きです」
甘さが丁度良くてという意味で言いながら、タッセは目の前にあったビスケットを食べる。
口の中いっぱいに広がる紅茶の香りとほんのりとした甘さ。うん、やはりクラッカーの作るくらいの優しい味がいい。
「余ったら兄弟におすそ分けします?」
「……余ったらな」
クラッカーがいつも作るお菓子はこれよりずっと甘い事を、タッセは知らない。
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