異文化交流 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ プレゼンテーション

 ホールケーキ城の九階、女王の間にクラッカーは駆け込んだ。玉座に座るのは我らが母、シャーロット・リンリン。傍らには義姉の姿もあったがクラッカーの目には入っていなかった。

「ママ!!話があるんだ!!」
「忙しない子だねお前は。帰って早々どうしたってんだい!?」
「婚約したい相手がいる!!」

 リンリンはほう、と片眉を上げる。数年前にも似たような話をされた事がある…が、その時とは違いまだクラッカーの許嫁については候補を立ててはいない。しかし既に1つの島を預けているし戦闘力も海賊団の中でトップクラスだ。生半可な相手に切れるカードでは無い。どんなプレゼンをするかお手並み拝見である。


「おれが滞在していた島に住むタッセという女だ」
「ああ、エンズレイの娘だろう」

 突然出てきたエンズレイの名にクラッカーは首を傾げる。エンズレイといえばこの海でも最上級のカラトリーメーカーだ。ビッグマム海賊団でも御用達で、拘りがなければまずエンズレイの食器が利用される。しかし、何故ここでその名が出てくるのだろうか。

「なんだ、知らなかったのかい?エンズレイの次女の所にいたんだろうお前」


 なんという偶然か…!!とばかりにクラッカーは顔を輝かせるが、それに対するリンリンの顔はいくらか不満げだ。良くも悪くも予想的中でつまらない。しかも相手は強大な軍事力を持つ訳でも、面白くて希少な一族でも、美味しい美味しいお菓子職人でも無い。カップ無しじゃお茶は飲めないし、皿がなければケーキを盛り付けられないが、カップも皿も食べれないのだ。


「そうだ。エンズレイ・タッセ。しかもただのお嬢様では無くうちのシェフ並か、それ以上に茶を淹れるのが上手くておれはお気に入りだったんだ」

 茶が上手い。良い事だ。しかし大した話ではない。それこそシェフ並ならシェフにやらせればいい。

「それに植物に対する造詣が深い。まともな人手も無いのにも関わらず原料から中々の物を育て上げていたのだ!!」

 上手の生産者。美味いお菓子は美味い材料も必要不可欠だ。しかし既に人手は足りているし、他所の国から奪っても良い。

「…その植物にはハーブも含まれる。あいつのハーブガーデンは中々充実していた」
「へぇ、ならなんで奪って来なかったんだい?」
「量が少なすぎてお土産に。それに調達船ではないから持って帰ってきても質が保てなかっただろう」
「……」

 ハーブ…ハーブか。お菓子作りの材料としても勿論だが、薬にもなる。そして薬は金になる。嫁入り道具の一部にハーブ一式を持ってこさせれば、いくらか時間はかかるだろうが万国にも良いハーブ農園が作れるだろう。


「そんなにお茶が上手いんならドスマルシェの許嫁にでもしようかね…」
「ママ!!!!」

 クラッカーの抗議の声を他所に、リンリンは思案を始める。エンズレイのティーセットと財力にハーブ畑なら我が子を1人対価にしてもよさそうだ。…と言っても、嫁を貰うのだから息子を失う訳でも無い。流石にクラッカーでは勿体ないが、お茶大臣を任せるドスマルシェには良いかもしれない。

 用意していたカードを全て切ってしまったクラッカーはどうか打つ手はないかと頭を捻る。どうにか打つ手は無いものか。このままではまさかの義兄としてタッセを迎えに行くことになってしまう。

「ねぇ、ママ?この前またエンズレイを王室御用達にしたいって国が出てきたわ。そろそろ天竜人の目に留まるのも時間の問題になりそう」
「…」

 万事休す、かと思われたクラッカーの元に助け舟が現れた。しかもかなりの大型かつ豪華船だ。

 エンズレイは美しく繊細な植物模様と金細工で万国以外にも各国の王国御用達となっている。美しい物は皆に好まれるから当然だ。既に天竜人の一部にも愛用者はいるであろうが、本格的に彼らの目に留まれば召し抱えられ、海賊を含む一般には中々手が届かないものとなってしまう。流石の大海賊、ビッグマム海賊団とは言えど天竜人に正面切って喧嘩を売るのは面倒であるし、手間だ。

 …となると遺憾なざら愛用のティーセットは今のうちに確保しておく必要が出てきてしまう。

「…いいよ、クラッカー。好きにしな」
「ああ…!!ありがとうママ…!!」

 仕方が無い、とばかりのリンリンに対してクラッカーは喜色満面。これから結婚するというのに些か落ち着きの欠ける姿に1つ釘を刺す事にした。

「クラッカー、おれはこの結婚に乗り気じゃ無ぇって事は覚えとけよ?」

 エンズレイのカラトリーを失うのは惜しい。しかし向こうが反抗的ならば、ビッグマム海賊団の威信を掛けて技術と職人を奪いあとは殺す。むしろ結婚後でも他にクラッカーに相応しい家と女が居れば離婚させてでも結婚させ直すだろう。

 だからこれはスピード勝負だ。早くタッセを連れてきて、早く結婚してしまい、早くママに認めさせなければならない。クラッカーは足早に迎えの準備を走らせた。




prev / next

[ back ]