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「クッキーアンドバニラC甘さ3氷ゼログラスジェリーパールダブルとブラックティーS甘さゼロ氷1パール」
「クッキーアンドバニラC甘さ3氷ゼログラスジェリーパールダブルと…ブラックティーS甘さゼロ、氷1パールのみでよろしいですか?」
「ああ」

 彼らは一体何の呪文を唱えているのだろうか。

 折角なら本店に行くぞ、と連れ出されたのはブラック島グリーンタウン。お茶大臣が治めるこの島はタッセにとって万国で一二を争うほど住みたい街だが、飲み物ひとつ頼むのにも呪文が必要とは知らなかった。勝手がわからないのでメニューも注文もクラッカーに任せてタッセはピタリと寄り添うだけだ。傍から見たらいきなり外に出されて飼い主の傍から離れないペットのようだろう。


 しばらくして注文した品が出てくる。片手には期間限定とポスターになっていた、如何にも甘そうなシェイク系のしかも巨大サイズ。もう片手には濃い色をしたアイスティーの底に黒の粒が敷かれたシンプルなもの…こちらは背の高いクラッカーの手ではすっぽり覆われるような可愛らしいサイズだ。

「ほら」
「ありがとうございます」

 小さい方を手渡されて改めてまじまじと見る。うん、これならもしも紅茶に砂糖がたっぷり入っていても何とか飲みきれる気がする。専用と言っても差支えのない太いストローを深めに刺して吸い込む。思ったよりも粒を吸い込んでしまい口の中がいっぱいになってしまった。

 どうしすれば、とクラッカーの方に助けを求めるが、タッセの如何にも初心者の様子が面白かったのがただ笑いを堪えるだけだ。仕方がなしに口の中を占拠するタピオカを噛む。割と弾力があって割と噛まなければならない。噛んでいくと無糖の紅茶の中に黒糖の味が混じっていく。流石に成形する為の都合もあるのかそこまで砂糖の味も強くなり過ぎない。口の中が甘いなと感じたら紅茶部分だけを啜って調節する。数分か、それとも十数分か、一口にかなりの時間をかけてやっと飲み込んだ。
 

「美味しい、美味しいですね…!?」

 まるで生まれて初めてケーキを食べた弟妹のようだ、とクラッカーの目には写った。新しい美味しさを知った時の驚きと喜びで輝いた目で見つめてくる。若干の悔しさもあるが自分がわざわざ見つけてきたものを気に入られて悪い気はしない。

「お、気に入ったのだな」
「ドリンクなのにティーセットでお茶してる気分です…!!お腹に溜まるのでおやつですねこれは」
「そうか?」
「はい!!」

 果肉入りのフルーツティーの感覚に近い。というか黒糖じゃなくて果汁で甘みを付けるのもあり…むしろ自分はそっちの方が好きかもしれない。

 タッセが店の新メニューを考えてうんうんと色々と考える姿に、クラッカーは調べた甲斐があったなと満足する。彼女の予想通り万国に甘くないものを出す飲食店なんて数少ない。味変の為のスナックでギリギリだ。

 見た目はカエルの卵なのに…

 聞こえてしまったつぶやきにクラッカーは吹き出した。タッセの中でそこは依然として変わらないらしい。隣でクラッカーがいくら笑っても気に留めなかったタッセがやっと顔を上げた。

「クラッカーさんは紅茶だとどんな組み合わせが好きですか?」
「飲んでない」
「…え?」
「今更お前が淹れた以外の茶を飲む気にはなれん」

 タッセは記憶の中のクラッカーを振り返る。今回のタピオカもそうだがテイクアウトでお茶を飲んでいる姿を見ていない。…これだけ流行っていてメニューの9割がお茶ベースにも関わらず、だ。それほど自分の淹れる茶を気に入って貰えているなんて、これ以上の喜びはない。

「…帰ったら早速試作するのでお付き合いお願いしますね」
「当然だ」



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