▼ こっそり見守る妹達
「……なんだこれは、失敗作か?」
クラッカーが怪訝な顔をする。視線は残りに向いており、タッセの浮かべる表情には気づいていなかった。
苦笑いでタッセがネタばらしをしようとしたその時、扉が慌てた声を発する。そして次の瞬間非難の声が響いた。
「「「クラッカー!!!!!!」」兄さん!!!!!!!!」
ずんずんとスムージーが長い脚で距離を詰める。カスタードとエンゼルが冷めきった目で左右を固める。対するクラッカーは何事だと言わんばかりだ。彼からしたら突然の妹らの訪問に意味がわからなければ、詰め寄られる覚えもない。
「よくもまぁそれを食べて失敗作と言えるものだ!!」
「はぁ?」
「どれだけタッセが練習したか!!」
「1番最初に作ったのの酷さを知らないからそう言えるのだ!!」
当人たるタッセを置いてけぼりにしてのこの非難。別に一番最初に作った試作も並の素人程度には酷くはないと思う分、本当にここはレベルが高いなぁと現実逃避してしまう。
「…ちょっと待て。つまり、これはこいつが作ったと言いたいのだな…?」
「「「だからそう言っている!!」」」
やっと事情を理解したクラッカーがタッセを見つめる。その姿を見て、妹達もまたこの兄がこれが手作り品だと気がついていなかった事を理解する。アイコンタクトで2人きりにしろと伝えれば、それを察した彼女達は、入ってきた時とは真逆の静かさで出ていった。
「…まさかお前自身が作るとは思わなかったのだ」
「…私も最初はどこかのお店で買おうかと思ったんだけどね」
二人きりで向かい合う。気まずげに視線を逸らすクラッカーの心情はタッセにとって予想の範囲内だった。そもそも美味しいと言って貰えるなんて思っていなかったので欠片も怒ってはいない。
「…クラッカーさんはどんな最高級チョコレートを食べても何も特別にはならないのかなって思って…その、拙くても手作りの方が印象に残るかな、とか、でもできる限り美味しく…せめて『食べられる』程度に食べて貰いたいな、とか考えて…」
照れくささで言葉が途切れる。そもそも、この男以外の為だったらそもそも労力に見合わないようなお菓子作りの練習をしようだなんて思わない。
「どこかの新米パティシエが作ったのかと勘違いした。…そのぐらいには美味だったのだ、許せ」
腕を取られ、加減された力で引き寄せられ抱きしめられる。
ちらりと顔を合わせようと横を見れば赤い耳が目に入る。…うん、そろそろもうひとつの勘違いを正してあげようか。
「許すも何も怒っていませんよ…?」
「なら!!詫びにこのおれが真に美味なるナナイモバーを作ってやろう!」
「あ、ごめんなさい。もうチョコレートは充分です」
「!!これだから甘党じゃない奴は!!」
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