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今回のお茶会はチョコレートパーティだった。会場にはチョコレートパフェが立ち並び、巨大カップからはココアが注がれている。テーブルの上は所狭しの本格チョコレートからフォンデュ、ケーキ、マカロン、ビスケット、クリームと積み上げられていたが、それももう過去の話。午前から開かれていたパーティはお開きとなり空となった器が運び出されている。
ビスケットの鎧を纏ったクラッカーはその中でぶすくれながら部下へと指示を出していた。それもそのはず、彼は今日、1番欲しいチョコレートをまだ口にできていないからだ。今回のお茶会はまだ部外者寄りのタッセは不参加だったし、そもそも最近何かと2人になれる機会が少ない。
クラッカーはシュトロイゼンの作ったチョコレートを口に放り込む。甘くて幸せになるはずの総料理長のスイーツも、今のクラッカーには効果が無かった。
…早くクッキータウンに帰りたい。
「…一体どこで油を売っていたのだ」
「私の出る幕はないもの。ここで待機ですよ」
チョコレートの匂いがきつくて家から出てさえいません。と、肩を竦めるのはこの女らしい。他の万国住民は嬉々としてチョコレートに舌鼓を打っていると言うのに。
クラッカーはビスケット島の自宅で自分を出迎えた女に苛立ちを隠さない。が、彼女はその程度で怯えるほどひ弱でも無い。出迎えたかと思えば部屋の奥に引き返して行った。
…いつも通りのあいつに安心すればいいのか、やはり苛立てばいいのか
ここでクラッカーはやっとバレンタインをタッセが他人事のイベントとして考えている可能性に至るが、それは杞憂に終わった。部屋に入ると丁度、奥の部屋から包みを取ってきた姿の女が見える。
「…何か言うことは?」
「ええと、ハッピーバレンタイン?」
「……」
ここで愛しているの一言も言えない彼女にもう何度目かの肩が下がる。…しかし脱力しているうちに苛立ちもどこかへ行ってしまった。
見覚えのないパッケージだから一点物なのだろう。クラッカーが包みを丁寧に開いて中身を見る。…ビスケット大臣たるこのおれにナナイモバーとは面白い。が、見た目の美しさからしておれの方が良いものを作れる。怪訝な顔でを摘み取り、しげしげと眺めた後、ひょいとそれを口に放り込んだ。顎を上下に動かし、口の中に広がる甘みと苦味のハーモニーを評価する。
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