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▼ 夕食と食後のティータイムを過ごしましょう

「おれが怖いか」

少し見上げたところにあるクラッカーの表情を、タッセはその意図を読み取りきれずにいた。つい先程別れた2人はもう見えなくなっている。

クラッカーから漂う、海の男らしい潮の匂いと、甘い物を常に食べてるせいか砂糖の匂いと、恐らくは戦士らしく浴び慣れたであろう血の匂い、それらの記憶がタッセの中に甦る。

そして今日、自分が赤ん坊の母親に諭した言葉を思い出す。逃げる事が本当に最善なのか。ちゃんと自分で考えろ。そう言って説得した。

タッセの答えは決まっている。思えば最初からクラッカーの事を好きだった。どんなに怖くても離れられない位にはクラッカーの事が好きになった。

恐怖が無い訳では無いから未だに血色の瞳を見るのに躊躇してしまうし、今もいくらか震えているだろう。それでも━

「強い力は怖いです」

ひと呼吸置いて目の前の顔を見ると気の所為か少し歪んでいるように見えた。

「ならば」
「ねぇ、クラッカーさん」

━笑う。ぎこちないかもしれないけれど、自分の気持ちが欠片でも伝わればという希望を込めて笑う。…伝わらなくても脳天気な馬鹿とでも思ってくれれば良い。

「クラッカーさんが今まで私達に暴力的な事をした事がありましたか?今私を殺しますか?貴方は元々そういった事に躊躇がない人なのに、苛立っても私達に力を奮う事は無かったじゃないですか」

いつかのようにしっかりとクラッカーの薄紅の瞳を見つめる。クラッカーはいつかとは違い神妙な表情で反論する。

「おれがもし、今お前を殺してこの店を乗っ取ったら?」
「…それはそれで自己責任ですね。出来れば後の2人は見逃して貰えると助かります」

「……フフ!!……ハハハハハ…………!!!!」

クラッカーが天を仰ぎ笑い声をあげる。一通り笑って再び向けた顔は少年のような笑みを浮かべていた。

「やはりお前は呆れた奴だ。最初に首を絞められたのを忘れたのか?」
「まともに力を入れてなかったのでノーカウントです」

クラッカーはまぁなとまた笑う。それを見たタッセもまた笑う。言葉面が物騒な割に流れる空気は穏やかだ。店と家の間の半端な場所でふたりきり、ただ笑い合う。ひとしきり笑ったところで力強い風が2人の髪を揺らした。

「冷えますし、家に入りましょうか」
「ああ」

後から考えてみれば、そう冷たい風では無かった。しかしそう感じたのは何故か。



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