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▼ 手に負えない

タッセは今朝突然舞い込んできた荷物に視線をやり眉を潜めた。代用ミルクで満腹になったらしく昼寝している。現時刻は正しく正午で、このままずっと寝てくれないかとも思う。

昨日の事件でクラッカーと接するのを極力避けてしまっている自覚はある。それは恐怖半分、もう一つは別の感情。クラッカーはあと数日で帰ってしまう、その数日をどう過ごすかはどれだけ早く気持ちを割り切るかにかかっているというのに。

…つまりこの荷物にかまけている余裕などない。仮にも生きている人間に対してあまりに辛辣とも言えなくもないがこれがタッセの素直な感想であった。

赤ん坊なんて犬猫以上に扱いが分からない。その場を動かず、異常の対処法は既に大抵心得ている植物とは違い、赤ん坊の出すサインは泣くだけ。事前知識0では対処しきれないし、間違えれば最悪命を落とすなんてリスクがあまりに高い。来るもの拒まず去るもの追わず、をモットーとしているタッセではあるが去る去れないの判断の出来ない者と一利もないものは流石に対象外だ。クラッカーがいなければ今日は店を閉めてでもこの子どもの親探しに行っただろう。

以上の理由によりタッセは一刻も早くこの赤ん坊を本来の親の元へ返したい。島の住民ほぼ全員顔見知りと言って過言では無いし、島から出る事もほぼ不可能。最悪一軒一軒訪ねて回れば見つかる筈だ。面倒な事になったなと思いつつ何か手がかりはないかと赤ん坊の入れられていたバスケットに視線をやる。するとクッションに敷かれたタオルケットの間に折り畳まれた紙があるのに気がついた。不揃いに折られて水滴を零したような歪みのあるそのメモには、同様に歪み滲んだ文字が綴られていた。

【この子を置いて逃げてしまった私には育てる自信がありません。この子をお願いします】

『逃げる』その言葉に昨日の記憶が蘇ってきた。

「昨日の…」

昨日の騒動でぶつかった女性の顔が浮かぶ。恐怖で青白くさせた若い顔。タッセも長い事この島に住んでいるから顔見知りだ。数回この店にも来た事があり、大きなお腹を抱えてストレス緩和系のハーブティーを買って行ったのを覚えている。

「……しら!母親に心当たりがあるから街に行ってくるね!」
「は、はい!いってらっしゃい!」

とりあえず彼女を捕まえて、ついでに少しだけ離れる時間が出来たから心の整理をしよう。本当に自分の感情だけでも手に負えないと言うのに。



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