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▼ 晴れが近づく

「マカロンに…生チョコレート…?」
「知らんのか?濃厚なお菓子と緑茶の相性はいい」
「あ、餡子…」
「そういう事だ」

テーブルの上にはお馴染みビスケットも乗っていて、相変わらずの大量のお菓子の内タッセが食べられる物は1枚の皿に纏まっている。

「昨日も言ったがどうしてお前はこれだけの茶の知識も、それに合わせる茶器選びも、場の設定も出来るのにどうしてお菓子にだけはこう関心が薄い。信じられんぞ」

湯呑みの縁を掴みながらクラッカーは純粋な疑問を口にした。クラッカーが彼女の立場なら、茶自体の次には合うお菓子の研究をすると考えるからだ。

「お褒めいただき光栄ですが、全て先代譲りなんですよ。茶器は自分である程度の知識はありましたけど、植生から加工・保存に関する知識、1番美味しい入れ方、器具機材、内装、この店自体だって全て先代から受け継いだものです」

余程その先代とやらは目の前の女の自慢だったのだろう。饒舌に語る姿は兄自慢を部下にする妹に近いようにクラッカーに思えた。しかしそれと同時に納得しきれない。

「先代先代と言うが、おれは先代とやらは知らん。今のこの店の店主はお前で、その技術と知識はお前のものだろう。誇れ、このおれが認めたのだぞ?」
「そ、う、ですか……」

タッセは両手で湯のみを持ち、ゆっくりと口に含む。タッセがこの店を継いで短いとは言えこのように言われたのは初めての事だ。

「お茶は熱くはありませんか?」
「いいや丁度いい。次はさっぱりとしたのをくれ」
「深蒸しの煎茶か茎茶、渋み苦味が苦手でなければ番茶もおすすめですよ」
「苦いのは嫌いだ」

飲んでもいないのに苦々しい顔をするクラッカーにタッセは笑う。席を立ち煎茶の用意をしながらふと、数日1日5度もの食事を共にしているのに味の好みさえ殆ど知らない事に気がついた。

「そういえばずっと紅茶ばかりでしたね、次は花ノ国茶やフラワーティー、フレーバーティーなんかも試してみても良さそうですね。いかがです?」
「紅茶は飲み慣れていて良いが…そうだな、お前が勧める物に合わせてお菓子を選ぶのも偶には良いだろう」

楽しそうに少年のような笑顔を浮かべるクラッカーを見ながらタッセはチョコレートを口にする。カカオの苦味と後から来る微かな甘みが美味しい。その為に作ったとはいえ、やはり目の前で自分が作った菓子を美味そうに食べる姿を見るとクラッカーも笑顔になる。

「お前は苦いものも平気そうだな、普段はこんなに苦味の強い菓子は作らんぞ?確実にクレームの嵐だ」
「クラッカーさんの周りは甘党が多いんですね」
「寧ろお前が異様だろう。甘い物嫌いの女なんて初めて見た」
「珍しい自覚はありますね」
「だからと言ってその馬鹿舌は頂けんがな」
「…勉強させていただきますね」

2人が談笑する間にも窓の外では雨が降り続いている。だが今や大分小雨になっていた。



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