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▼ 強いていえばキッチンが低いく狭い

カカカカカカカカカカカカカカカ

ボウルと泡立て器が規則的に当たる音がして、バターと砂糖と卵が混ざりあっていく。小分けにして加えた卵のオレンジが空気と共に混ざりきるとムラのないアプリコット色になる。

そこに小麦粉とふくらし粉を加えると粉の白さが目立つが、へらで切りながら生地を纏めていくに従い少しずつ元のアプリコット色に戻っていく。

たった今完成させた生地を型へ送り込むと横に並ぶ2つを含め三種類のパウンドケーキの準備が出来た。クラッカーは釜から焼きあがったベイクドチーズケーキを取り出し、入れ替わりにそれらを入れる。

軽くチーズケーキの匂いを嗅ぐがやはりいつも食べてるものとは違う。材料の差か、己がビスケット以外は作り慣れていないせいか。帰ったらシュトロイゼンにレシピを聞きにいかねばならない。

ホカホカのチーズケーキは粗熱を取るためにテーブルに置いておいた。

繋ぎのために能力でビスケットも生み出したが、高々5、6種類のお菓子を作っただけで今日の分はもう足りるらしい。むしろ余りそうだとか言うので冷やすのに時間のかかるものも作ってみた。

…万国のカフェなら1時間持つかどうかとういう量にいまいち納得がいかない。

「クラッカーさん、何か完成したものはありますか?」

片付けるかとクラッカーがシンクに立ったのと同時にひょい、とバックヤードに顔を出してきたのはタッセだった。

「ジンジャービスケットとスコーンがハードとソフトの二種類だ。味見してみろ。」

粗熱が充分に冷めた品を勧めると今朝とは打って変わり素直にジンジャービスケットを摘む。クリスマスの飾りにも使われるジンジャーブレッドマンの形をしたそれは、口の中で程よい生姜の香りとほんのりとした辛みを広げた。

「凄くおいしい…」
「当然だ。今朝食わせた即興品と同じだと思うな」
「え…!?」
「…哀れな舌だな。これだけの違いも分からんとは」

投げやりにスコーンも手渡すと、タッセはそのまま口にしようとした為、クラッカーが止める。

「待て、そのまま食べるのか?普通ジャムを付けるだろう?」
「うちにジャムなんてありましたっけ」
「オーブンの温め待ちで作った。冷蔵庫にある」

促されるままに冷蔵庫を開けると、赤、橙、濃黄、薄黄、黄緑と瓶の中に果肉の色を濃く、艶やかに変えたジャムがいくつかあった。そのうちの赤を手に取り横に割ったスコーンに少しだけ乗せると見るからに美味しく見えた。

それを口にするとシンプルで薄味のスコーンと甘く煮られた苺の味が口の中に広がる。タッセの頬は気がつけば緩んで笑いが漏れていた。

「美味いだろう」
「ええ、とても。…島の苺を使ったからかオーナーの作ってくれたお菓子を思い出しました」

クラッカーは、おれの作ったものの方が美味いに決まっているだろうと言いかけて、止めた。

結局買い足したのはミトンとエプロンぐらいのもので、調理器具は実際に買い足す必要は全くない程に充実していて、本来不必要な程にしっかりした石窯のオーブンがあった。道具はどれも使い込まれていたし、どれほどの腕かはさておきお菓子作りが好きだったのは間違いがない。

「おれのビスケットがその先代とやらには及ばないとでも…?」
「………ええと…」
「ああ、お前の馬鹿舌で分かるはずもないな、聞いたのが間違いだった」
「すみません………!!」

それでも少しの悔しさがあるので、それと同じだけ揶揄ってやる。そうすれば案の定タッセは返す言葉がないとばかりに唸る。

「タッセさーん。ニルがヘルプ呼んでまーす!」
「あ、分かった!すぐ行く!…失礼しますね」

遠くから「呼んでねぇ!」と声が聞こえた気もするが構わずタッセはクラッカーに1度頭を下げ、売り場へ戻っていった。

パタパタと駆けていく後ろ姿を見ながらクラッカーも洗い物に戻った。



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