▼ 産まれなかった事にされた子
閉鎖的な故郷では他所の女と結婚した挙句、出来損ないの子ども連れた男は嗤われた。
━━短足との間に子供なんて作るから。
━━折角脚長族の血を宿しているのに欠けてるなんて哀れ。
━━なんか脚じゃなくて手も長くない?やだ手長族みたいで気持ち悪い。
障害持ちの子どもを育てるのは、普通の子どもを育てるより苦労が多かっただろう。金も掛かるし労力も掛かる。好奇の目に晒される。他に行く宛もないから島から出ることも叶わない。しかし男はラッシーを愛し、育て上げた。全て全て、あの女のせいなのだとと言い聞かせて。
しかしラッシーはその男と彼の女の子どもであった。容姿こそ父親にかなり寄っている。しかしその表情、年を重ねても何かと見せる幼い表情や甘い物を食べる時の幸福感に満ちた顔は母親譲りだった。しかも男にとって悪い事に、その余りに幸福そうな顔は年々彼の女に似て行った。愛しの息子に憎い女の姿を見出した男は耐えきれなくなった。
━━あの女と出会わなければこんな事には…!!
━━お前が嫌われてるんじゃないんだ、お前の母親が嫌われてるだけだから
━━ごめんな、最悪の母親を持たせてしまって
ラッシーの人生の不幸は全て母親に由来する。
「ただ、我儘を許されるなら、シャーロット・スムージーの相手はおれにさせて貰いたい」
父親から、同じ父から生まれた妹がいると聞いていた。まさか再会するなんて思ってもいなかったが、その姿を見た時は驚いた。特徴的な外見だから直ぐに分かったし、それ以上にまるで間違い探しのような外見…間違い探しにしては分かりやすい違いが2つほどあったか…。他2人の妹には悪いがラッシーにはスムージーしか目に入らなかった。
嗚呼、道分かれた片割れよ。お前は幸せだったか?おれは今やっとこの甘い幸せを味わっている最中だ。
ラッシーは頭を下げる。どうしてもスムージーだけは自分がやりたい。
「あの女は将星だ。馬鹿正直にやればおれたち全員が束になったって適うか分かりやしねぇ。やるなら頭をぶち抜く暗殺だ。まともにやり合ってたまるか」
ベッジが口に含んでいた煙を吐き出す。
「だが……もし万一の事態に足止めが必要な場合があるってんなら、まぁ対スムージー隊として入れてやってもいい」
ラッシーはガバリと顔を上げる。敬愛する船長は楽しげな、不敵な笑みを浮かべていた。
「何にせよ気の早ェ話だ。まずはビッグ・マムから信頼を勝ち取って、早くて1年後か?妊婦を連れての暗殺だなんて危なっかしくていけねぇ。ジュニアが産まれるまでは待たねぇとな」
「ちょっとあんた!女の子かもしれないじゃない」
「いーや!きっと男だ!なージュニアーー!!」
真剣な雰囲気から一転、嫁といちゃつきだした船長に船員一同は固まる。と言うか、今妊婦って言わなかっただろうか。
「「「「「え、えーーーーーーーーー!!!!????!!??」」」」」
さぞ健やかに不自由無く育ったのだろう。美しく強い女よ。おれはお前の存在に怒りを覚える。
おれの片割れ、おれは今やっと幸せだ。お前は幸せだったか?待っていろ、その幸せを壊しに行ってやる。
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