▼ 紅茶の日
店を出た2人は腕を組んで並んで歩く。しばらくの間は特に何も話さず歩いていたがテクラが思い出したようにふふと笑った。
「兄さんのケーキ美味しかったでしょ」
「…もしかしてわざと何も言わなかったのでしょうか?」
「それもちょっとあるかも、兄さんもだけどヴィリバルトもお互いに意地張るでしょ?今日のは兄さんの作るお菓子の中では久々かつ最高に良かったんだから!」
花が咲くような笑顔で自慢するテクラが幼子のように可愛らしく見えたのでそのキャラメル色の髪を撫でる。すると今度は俯いてしまったが髪の合間から赤くなった頬が見えた。
「あいつは菓子よりも飯の方が上手いからな」
「…意地っ張り」
「お好きにどうぞ。それよりもまさかテクラの作ったのがよく残ったな。菓子ならテクラの作った奴の方がいつも美味いし、家を手伝ってる分量も間違えないだろ」
「………」
「…?テクラ?」
折角の2人きりと言うのにあれの話ばかりというのも色気がないため、適当に話を切り上げて尋ねてみたが返事が来ない。しばらく待ってみると、軽く組まれていた腕の部分の袖を下に引っ張られる。軽く屈んでやれば耳打ちされた。
ーーーお店で出したっての嘘。ーーーーヴィルに食べてもらいたくて作りました。
ケーニッヒは面を食らってテクラの顔を見てみれば、先程の比ではないくらいに顔が赤くなっている。
今度は敢えて何もせず、強いていえば組ませた腕を少しだけ近づけさせ、強いていえば少しだけ家路を急いだ。
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