異次元の狙撃手5
ところ変わって警視庁。
「こちらをご覧ください」
机には私たち関係者と警察関係者。
前にはFBIの3名。
「我々の入手した写真と、あの狙撃技術から、犯人はこの人物だと思われます」
ホワイトボードには写真の下に氏名、年齢が書かれている。
「ティモシー・ハンター37歳」
「元海軍ネイビーシールズの狙撃兵で2003年から3年間中東の戦争に参加。数々の功績を残した戦場の英雄です」
「その英雄がどうして?」
と小五郎くんが単純な疑問として動機を問う。
「原因と思われるのが、このシルバースターです」
シルバースター…敵対する武装勢力との交戦で勇敢さを示した兵に送られる名誉のある勲章。
ハンターは2009年に勲章を受賞したが翌年、2010年に交戦規定違反にて剥奪。
1度名誉を手にした者は奪われてしまうと何をするかわからない。
武器を持たない民間人の射殺ね、到底許されることではない。訴えた士官も訴えるまで苦しんだだろう。まぁ、本当ならばだが。
事実、証拠不十分で裁判沙汰にはなっていないというし、英雄とは身内にも敵はいるのだろう。
羨望、嫉妬。人間とは醜いもので、自分の持っていないものを羨む。
そうして、ティモシー・ハンターは戦場の英雄から、疑惑の英雄へと姿を変えてしまった。
そして、影響でか、彼は次の戦場で味方から孤立し、敵の銃弾を頭に浴びた。
冷静さを欠いたのか、ただ、手柄を立てて英雄に返り咲こうとしたのか…。
一命を取り留めたが、彼は除隊、帰国。
しかし、不幸は終わらなかった。
帰国後、平穏を求めて、田舎に移り住んだが、戦場での記憶は消えず、苦しめ続けた。
むかし、聞いたことがある。
第二次世界大戦を経験した人々が、帰国しても戦場の記憶が消えず、フラッシュバックして病んでしまったという話。
戦場は、何かを奪いこそすれども、何かを与えることはない。
そして、彼の妻や妹も自殺や破産、そこから薬物の過剰摂取での、妻の死と苦しむことになった。
名誉も財産も、愛した家族さえも彼は失ってしまった。
事前に軽く聞いた内容よりもどっと重いじゃないか。
愛した家族を失った。その一言に、私は唇を噛み締めた。
決して、他人事ではなかったから。
そして6年、彼は行方不明となった。
白鳥刑事が彼が容疑者となった流れを問うた。
シアトルで三週間前に新聞記者がライフルで射殺された。
その記者は『疑惑の英雄』と連載記事を持ち、ハンターと妻を執拗に取材していたことが分かり、彼が容疑者へと浮上。
FBIと警察が調べれば、二週間前に日本に入国していることがわかった。
そしてFBI本部は『休暇』で来日していた、組織を追う3名に身柄確保の名を下した。
「なるほど、それで今に至るというわけですか」
「ええ、ところでその後のハンターの行方は?」
目暮警部は顔を歪め、手掛かりなしという事実を伝える。もちろん、捜索はまだ続けているが。
「無理もありません」
「え?」
申し訳なさそうな目暮警部にキャメルさんが庇うかのようにSEALsを説明する。
SEALsのSEALは海空陸の頭文字をとったもの。
中でも泳ぎは得意、と。
「ライフル狙撃と同様に…って?」
「え…あ、はい」
「そうだ美織くんはやつを追ったんだね!?」
「追いましたよ〜逃げられたけど。
流石に手榴弾まで持ち出すとは思わなかったし、バイクには追いつけませんから」
「その狙撃ですが、ライフルを撃ったと見られる屋上から妙なものが見つかっています」
ジョディ先生が聞き返せば白鳥刑事は千葉刑事に指示を出し、写真をホワイトボードに貼らせた。
ベルツリータワー側にサイコロと長さ51mmの空薬莢。
立てられた犯行に使われた口径と同じ薬莢に横に置かれたサイコロ。
薬莢自体はハンター愛用のMK11とも一致する。
シアトルにはなかったらしいものだが、ハンターはダイスゲームが好きで左腕にサイコロのタトゥーも入れているほどだった。
確実な繋がりとは言えないが、接点がない訳では無い。
しかし、犯人がハンターであるということの証拠は被害者にある、とジェイムズさんが続ける。
「ええ、その藤波宏明こそ、ハンターに日本の不良物件を売りつけ、破産に追い込んだ人物なんです」
その一言に会議室がざわめいた。
「こりゃあ犯人はハンターに間違いねぇな」
不敵に笑う小五郎くんに、真純ちゃんは納得がいかないような表情だ。
「そういえば、何で世良の姉ちゃんは藤波さんを尾行してたの?」
「あ、それわたしも気になる。
もしかしたら、依頼者がハンターと繋がってる可能性もあるしね」
警察側も疑問を呈して、佐藤刑事が問う。
「僕の同級生の親戚が藤波さんと結婚する話があって、胡散臭いって身辺調査を依頼してきたんだ」
「身辺調査ァ?生意気な…」
「生意気もクソもないでしょうよ.....」
クスクスと笑う園子ちゃんに、苦笑する蘭ちゃん。
彼女の実力は悪くない。
それこそ、尾行の技術も。
真純ちゃん自身の捜査でも人のいい外国人をカモに日本の不良物件を売りつけていたらしい。
「確かに、私たち隣にいたけど、藤波さん、外人の老夫婦に『築30年だが、今までなら三ツ星だったが、ベルツリータワーができたことによって眺めは四つ星、資産価値にしては五ツ星!』なぁんて言ってたわね」
「聞いてたのかい!?」
身を乗り出して聞いてくる高木刑事。
「真横であんな大声で売りつけてれば嫌でも聞こえるわ。聞いてても30年は流石に古すぎって思ったけど…あの老夫婦は身なりも良さそうだし…まぁ、建て直す可能性も無きにしも非ずってところね…」
「へぇ…まぁ、殺害されたのは残念だったけど、再婚話が亡くなったのはよかったかもね…」
「今後詐欺で訴えられれば困るしね」
「ああ」
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