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「咲良くん!」
「ん?」
名を呼ぶ声にふと振り返った。
たしか女子の体育委員だったはずだ。
「先生に頼まれたんだけど、今日の体育の男子の方に行って欲しいって…」
今日から授業が始まり様々な教科のオリエンテーションがある。
そういえばうちのクラスと隣のクラス、つまりA組とB組では男女比が少しばかりズレており男子の方が1人少ないのだったか。
「あー、うんわかった。
ありがとう」
まぁ、昔から男子に混じっていたし特に抵抗はない。
彼らも私を女だと見はしないだろうし。
三四限という空腹になるタイミングの体育は結構辛い。
まぁ入学一回目の体育なんて授業らしい授業でなく、女子と男子で別れてのドッジボール。
来週からは体力測定らしい。
「ルールは?」
「普通でよくね?ってか咲良男子側でいいの?
女子の方行ってもいいんだけど」
「人数合わせだからこっちでいいよ」
「怪我すんなよ?」
ニヤニヤと笑う男子にあーあと呆れる野球部男子。
うーんまぁ、どっちでもいいけど頑張っちゃおうかな。
「お気にならさず。
で?チーム分けは?」
「部活毎とかでよくね?
野球部とバレー部、サッカー部とバスケ部的な」
「陸部は?何人だっけ?」
「8人…あ、ちょうどいいじゃん」
「咲良野球部のマネだっけ?」
「そうだよ。じゃあ野球部側に貰うわ」
「頼んだぜ」
ニヤッとやらしい笑みを浮かべる御幸くんにニヤニヤと楽しそうな倉持くん。
その他ブルペンの状態を見ている野球部も「油断させる為に最初は避け専で後から頼む」と小声で言ってくる始末。
「はいはい」
女子は体育倉庫で見つけたバドミントンで遊ぶ者、隅の方で駄弁っている者。
なんとまあ協調性があるのかないのか。
結局ドッジに反対してやることを辞めたし先生も諦めた。
コートを石灰で先生が引いてその中に半々の人数になった男子が入り、外野には帰宅部の男子が一人ずつ。
ピーッと笛が鳴ってバスケ宜しくジャンプボールで開始。
さすがにバスケ部が有利であっさりとボールは敵陣に落ちた。
私の前にスッと御幸くんが立って手で動きを制している。
チラッっとこちらに視線を送る彼の動きに倣い一歩下がって守られる風にしておこう。
「咲良くん頑張って〜!」
「田中ァ!咲良くんに当てたら許さないから!」
「うっせ!」
「御幸が咲良の守りに入ってんぞ」
「狙ってけ」
と、思えば普通に御幸くんが当たった。
「え…」
「ヒャハハ!御幸だっせぇ!」
「うっせぇー!
倉持咲良頼んだ」
「おうよ」
「…そんな簡単に当たるかね…捕球が本職なのに…」
「野球にステ全振りしてるタイプだなありゃ」
「どうすんの?減らす?」
倉持に小声で聞けば「もういいだろてか普通にフリとかめんどくせえわ」
「オッケーオッケーんじゃ、やりますかね」
――――――――――――――
倉持が御幸が当たった際地面に落としたボールを構え敵陣へ投げた。
まっすぐ飛んだそれは取られたように見えたものの、手のひらを弾き宙を舞い地面へ着地。
そのまま拾おうとした敵陣の男子は追いつかず咲良の足下へ転がる。
その姿にボールが投げられるまでまだ猶予があると判断した彼は
余裕を持って後退していく。
――――――咲良が振りかぶりボールを放つまでは。
ボッ!と鈍い音を立てて後退した男子生徒の腰あたりにボールが強打した。
「っ!はぁ!?」
当てられた方も一瞬何が起こったのかわからず、ボールは無情にも彼の足下で停止していた。
「おら早く外野いけよ〜」
煽るようにニヤニヤと倉持はそう言い放つ。
「…クッソてめぇら野球部隠してやがったな!?」
「きたね〜ぞ!!」
「誰も咲良が運動神経は女子とは言ってねえよばーか!」
確かに誰も言っていない。
何なら部ではない男子は彼女がミットをかぶる元選手だということも知らないだろう。
「咲良く〜ん!!頑張って〜!!」
投げられたボールは咲良に向かうが両手でしっかり捕球し、すぐさまリリースする。
「さすが元リトルキャッチャー」
「当てたわけじゃないから持ち上げることでもないよ」
空腹だろう育ち盛りの男子高校生たちが(例外はいれど)結構本気でドッジボールを行う姿に、体育教師は笑っていたのを彼らは知らない。
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