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はつしごと

「波香、僕はずっと一緒にいられるわけじゃないから、一緒にいる人の云うことをよく聞くんだよ」

「うん」

「私がついているから平気さ〜」

翌日。
波香の初出勤は敦に手を取られ、反対の手を太宰に取られて3人揃って歩いている。
ともすれば似ていない三兄弟のようにすら見える。

「…太宰さんと一緒という事に国木田さんの胃を心配します…」

「くにきださんのい?」

「何でもないさ!さ、初出勤といこうじゃないか」

昇降機(エレベーターに乗り込み四階へ。

「おはようございます!」

「おはようございます」

「おはよぉ〜」

「おはよう。よし、来たな。
波香、よくやったな」

「え?」

国木田は眼鏡のブリッジを整え、キョトンとする敦へ視線を送る。

「波香への初仕事は、太宰を朝から出勤させることだ」

敦はその国木田の答えに口端を引き攣らせて波香を見た。
彼女は無表情でピースを敦に送り、ちゃっかりと国木田から駄賃を貰っていた。

「なるほど…」

同じようにそれを初めて聞いた太宰は、顔を引き攣らせた。

「だからあんなにも積極的に私の布団に入りこんだりして起こそうと試みたのか…」

期待して損した、と独り言ちた。
……軍警に突き出すべきか、と敦と国木田が冷たい視線を送った。

「今日の予定は…あぁ、敦、谷崎とこの依頼に行ってこい。
波香は太宰の見張りを頼む」

「私の見張り?」

驚いたようにわざとらしく目を見張る太宰に国木田がスパァンッと分厚い封筒を頭に叩きつけた。

「これがなんだか分かるか」

「えぇー?分からないなぁ…」

「貴様が!残した!書類の!束だ!」

その封筒は10(センチはあるだろう脅威の分厚さに、敦と谷崎が呆れたように笑いを零した。

「だざいさん、やろう」

グイッと腕を引いた波香に抵抗もせず太宰は机に向かう。

「波香ちゃんが云うのならば仕方が無いねぇ…」

と外套を脱ぎ、国木田から封筒を受け取った。

「…手伝う」

太宰の隣にいつの間に用意されたのか、机の高さに合わされた子供用の椅子に登って座ると、国木田が準備したのであろう名前が刻印された六角鉛筆を握りしめて太宰を見つめていた。

その姿に肩を竦めて、太宰は珍しくその日は書類を捌いていたのだった。

*










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