今日からここで
あれから時計を見るに3時間が経った。
私と彼の話し合いは平行線。
私が話したのは彼のコードネームがスコッチであること、所属は警察庁公安部であること、組織のカラーが黒である謎の多い組織に潜入捜査をしていること、そして、彼の同輩と共に潜入しているということを知っているという情報だ。
これに関しては前世での記憶もあったが、今世で出会った警察関係者から不審に思われない程度の情報を少しずつ収集し、彼らが存在することを確信した事もあっての事だ。
私がいることでこの世界がおかしくなる可能性は十二分にある。つまり、キーパーソンである彼らが存在するのかは非常に重要だった。
私が見ていた似て非なる世界であっては困るからだ。勿論、私がいる時点で似て非なる世界であることに変わりはないのだが、プラス要素はあれどマイナス要素はないに越したことはない。
「……今の現状言えるのは以上です。
その上で確信付て言えるのは私はあなたと敵対する意思はない、ということです」
「時が来れば話す、と?」
「そうですね。話すべきことは話すと思います。
出来れば今は私を信じて折れてほしいです。
結局生きていることが露見すれば、貴方を殺さなかったあの場にいた男性も危険に晒すのでは?」
ゆっくりと彼は瞳を閉ざした。考え込むようにも見えたが、それは大して長い時間ではなかったため既に答えは決まっていたのだろう。
「確かに、現状君の言う通りだ。
無条件に信じることは出来ないが、今は君を信用してみるしかない。
この通り携帯すらも手元にないからね」
一度、俺は死ぬことにする。
間違いなくそう言った彼の瞳に映るのは、決意と少しの猜疑心。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは俺の方だよ。
あの場で君がいなければ俺は既に死んでいた……─────ていくところだった……」
「え?」
最後の方が聞き取れなく聞き返すも、気にするなと手を振られところで、と話題を転換される。
「隠れるのは分かったけれど俺の家に帰るわけにはいかないし、職場にも隠す手前準備させるわけにもいかないが……」
「あぁ、そうそう。
この家、使ってください」
そう言えば彼は、は?と瞠若した。
「御両親……は海外だったか……
いや……さすがに年頃の女の子とふたりは……」
「安心してください。私今ここには住んでないんで……たまーに帰ってはきますけど……」
「住んでない?」
「はい。両親が海外に移住する時に日本に残る代わりに従兄弟の家に世話になってます」
「あぁ……工藤優作さんの……」
「そうです。なのでそのへんは安心してください。親にも許可は貰いましたし、部屋も後で案内しますね。パソコンやら何やらもありますんで、パスの掛けてない範囲でご自由にどうぞ……あ、そうそう……村雨さん……本名、教えて貰えません?」
「あぁ、そうか……言ってなかったね……
諸伏景光だ。改めて宜しく白樫美音さん」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」
長い付き合いになるか、短い付き合いになるか。
今日からここで
諸伏……ってまさか……?
*
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