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今一度向き合おう



応接間を静寂が包む。
私も兄さんも一言も喋らない。
数十分前にゆきちゃん、いや、工藤有希子が持ってきてくれたコーヒーとココアも湯気が減ってきた。
兄さんが時折飲むことで、ソーサーとカップが当たる音のみが室内に響く。

「俺もあの後死んだよ」

1時間だったか、30分だったか、はたまたもっと短いかもしれない無言の後、唐突に兄さんは言った。

「……だろうね。そうじゃなきゃ兄さんがここにいるわけが無い」

「あぁ、お前が死んで病院も辞めた
まさか、生まれ変わりなんて存在するなんて思わなかったしな〜。
俺たち医者は科学者だし」

へらっと笑った兄さんに、何故か私が腹が立った。

「私のせいでしょう?」

「いや、違う」

「嘘。私が死んだから。兄さんは私のために医者になったのに、私が生きることを諦めたから
だから、許せないんでしょ」

「……そうだな」

あぁ、やはり。
私は、やはり彼を不幸にしていた。

「でも勘違いするなよ。
俺はお前が生きることを諦めたことよりもお前が生きることを諦めることを、死ぬことを止められなかった俺自身を許せないんだよ」

と、苦笑した。

「なんで?
私が……「お前がお前がって……馬鹿か」馬鹿って……
だって私があの崖で! 手を取れたのに取らなかったから! 車椅子から無理に立ち上がって崖先に向かったから! だだでさえ私はあんなになって父さんも母さんも兄さんも不幸にしたのに!」

「お前があの時足を踏み外して、手を取るのをやめたのは、生きることを諦めたのは、
兄として、お前を支えられなかった俺の責任だ。
医者として、お前を治せなかった俺と現代医療の責任だ。
……それをずっと抱えてきたのか? あの時死んでから、ここで生まれた16年も」

「っ……忘れてはいけないから。
私が逃げたことを、私が幸せになるわけにいかないから」

「お前はほんとに……」

はぁ、と兄さんが深いため息をついた。

「昔の図々しさと図太さはどこいったんだよ。
今回のこともそうだ。なんでお前はそうやって誰も頼らないんだ。
自分だけで解決しようとするな。
前のことを後悔してるなら死を選ぶな。
俺に、母さんや父さんに後ろめたさを感じるなら生きろ。今度は諦めるな」

「……そんなにすぐ割り切れるかよ……」

「やっと戻ったな。
しおらしいのは似合わねぇよお前は。
俺もまた、父さんと母さんより先に自殺した。
お前と同じ、いや、それ以上に親不孝だ。で、ここで生まれた。年の差まで同じとは思わなかったけどな〜……」

「まじ?……ってかなんで警察に……」

「お前の噂を聞いたから、かねぇ
美音って名前で気にかかったからな」

「それだけで?」

「お前も読んでたろ?
コナンは」

「……いつ気づいたの?
兄さんは私みたいに主要人物周辺に生まれてないでしょ?」

「気づくに決まってんだろ。
東都、米花町、工藤優作、藤峰有希子
こんだけ材料が揃ってりゃ分かる」

「……まぁそっか……」

今一度向き合おう

この罪悪感は消えないけれど、
少しだけ、1ミリくらい救われた気がする。

*

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