先の勝ちは貧乏勝ち
「っ……はぁはぁ……
もう、いないよね……!」
走り抜けていつもの路地裏で撒き、再度工藤邸へ戻ると、
「あら! みぃちゃんどこ行ってたの?
警察の方が「また私から連絡入れるから平」いや、待ってられるわよ。玄関で!」
「!? な、は!?」
「よう、美音ちゃん」
その笑顔は頭の中にある笑顔でなく、言外に「さっきはよくも逃げやがったな」と言いたげな含みのある笑顔だ。
「いつもの二人じゃないわよねぇ?」
「萩原先輩と松田先輩の紹介で知り合ったんです。ちょっと困った事件なので、女子高生探偵のお力を借りたくて」
人の良さそうな笑みでゆきちゃんに話す。
「あらそうなの?
なら優作もいれば良かったのに…… 」
「いえいえ! 捜査一課や二課の事件ならいざ知らず、たかが生活安全課の取り扱う件に稀代の名探偵に頼れませんよ!」
「まぁ、事件に大小はないわよ!
それじゃあ、ごゆっくり〜」
応接室を閉められ、とうとう彼と二人きりになった。
「さて、久しぶりだな。美音
名前は変わってないみたいで安心した」
「……なんで、いるの……」
震えて小さくなる声を張ろうと少しだけ唾液を飲み込んだ。
顔や声は違えど、見覚えのある仕草に私を呼ぶ雰囲気。
やはり、彼は間違いなく、前世の私の…
「兄さん……」
兄、であり、主治医の亮也、その人だ。
先の勝ちは貧乏勝ち
「やっぱり、分かってたんだな」
逃げきれたと思っていたが、追いかけっこに勝っても、ゴールにいたのは私が不幸にした1人だった。
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